鈍痛 | ナノ



あの一件から及川君に構われるようになった。構われると言ってもちょっと挨拶したりとか、見学おいでねーとか、まぁ彼が他の女の子に話す内容とたいして変わらないだろうことだ。
そのうち私にバスケ部に入らないのか、とかどんなプレースタイルなのか聞いてきたのだけれど、趣味にとどめておこうと思う、攻撃型だとだけ伝えるとあまり話題には上がらなくなり、自然と他の話へとシフトしていく。今度練習試合をするとか、部活中に女子に手を振ったら殴られたとか、こんな後輩がいるとか。
彼は寡黙ではないから立ち話し相手の中に私一人増えたところで特に周囲の変化もない。むしろ三年生になって初めて話したことを驚かれたぐらいだ。

「またねー徹くん」
「ばいばーい」
「練習がんば!」
「ん、ありがとう」

声をかけられる度に返事を返してはひらひら手を振る。一年の時、衝撃を受けてからというもの及川君を観察してはあのプレーがどう成されているのか考えていた時期があった。結局それは、原理は理解出来ても私には実行出来ないもので、攻撃型のスタイルが自分に合っていることを痛感した。

(正直、ちょっと期待してたんだけどなぁ)

あれが出来れば私もチームの皆と戦えるかもって思ったのに。少しだけ気分が下がって眉間に皺が寄った。

「……さいあく」
「なにが?」
「っ、及川君」
「眉間に皺寄せちゃってー、悩み事?」
「悩み事ではないよ。ちょっと……昔のスランプ思い出したというか」
「あー、あれは苦い思い出だよねぇ……」
「そうだねぇ」
「ま、俺は岩ちゃんに強制的にスランプ卒業させられたけど」
「岩ちゃんって、その人?」
「え?」

なんのこと?と一瞬固まった後、物凄い勢いで振り返った及川君の背中がこちらにぐらりと傾いた。デコピンでもしたのかな。

「ちんたら喋ってんじゃねーよ、行くぞ」
「ちょっ、殴らなくてもいいじゃん岩ちゃんのばかぁ!」
「るせぇ!」

及川君は気を遣ってくれただけだと伝える間もなくずんずんと彼を引きずって体育館へ向かう背中。さっきと同じように手を振った及川君に軽く頭を下げてその様子をぼんやり眺めた。
彼がいたから脱スランプできたのか。羨ましい限りだ。でも、それは確かに及川君が主将として、一プレイヤーとして慕われていることの証なのだと考えるとやっぱり、私は彼のようになりたいと強く思うのだった。



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