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「はいはい、どちらさんー?」

「あ! やっと出てきたっ、深海! さっきはどうして逃げたのっ!? やっぱり図星だったからでしょっ、やっぱり深海がなんにも言えない青になにか言ったんだね! よくないんだよっ、そういうことは!」

「……うわぁ、近所迷惑だよ、愛伊。ちょっとボリューム下げても聞こえる」

「話を逸らさないでっ、僕のこと部屋に入れてよ! チェーン外してっ」

 やだよ。
 なんで部屋に入れないといけないんだ。

 そう思いながらも笑って愛伊に、「はは、いやに決まってんじゃん」と言う俺。

 っていうか青がお前のこと嫌ってるし、怖がってるんだから、それ以上近づくなよな。

「青っ、青ならわかるでしょ!? このチェーン外して! 僕が青のこと助けてあげるからっ、ほら早く!」

「……いやだ。お前、消えてよー」

「なっ!? まさかそれも深海に言えって言われたの!? 僕が消えろなんて言われるはずないんだもんっ、深海も、流伊も最低だよっ!」

 弟くんの時も“消えろ”って言われたんだぁ。へえ。と思いながらも、にっこりと笑い、俺は携帯電話に手を伸ばす。

「ちょっと、なにするつもりなの!? 早く開けてよっ」

「――あー、もしもし、警備員さん? すみませんが、今俺の部屋に不審者がいるので、すぐに来てもらえます? はい。2年の柏木深海です。お願いします」

 なにかあった時のために、警備室の電話番号入れといてよかったぁ。
 言いきると、愛伊の手が届くぎりぎりまで近づいた。

 そして、俺のことをつかもうと伸ばしてる手を反対に掴んで、そのまま上からもう片方の手で殴りつける。

 ボキッと音が鳴り、同時に響く悲鳴。

 愛伊が痛みに倒れ、腕を引っ込めた瞬間、ドアを閉めてやった。

「ふう、これで静かになるな!」

「……」

「ん? 青、どうしたんだよ」

「んーん。深海って、案外過激だねぇ。ほれなおしちゃったぁ」

 はは、これくらいで過激って……だったら、道は一体どうなるんだ。

 そう言いたかったけど、青の言葉が嬉しくて、俺は、「へへ、そりゃどうも」と笑いかけた。

 まあ、これで愛伊は警備室にでも連れていかれて、そのまま病院行きだろうな。そうするとあいつは拘束されたも同然だから、そのうちそこに家のやつを向かわせて、逃げるということすら考えないだろう愛伊を簡単に捕まえる。で、売り飛ばす、と。

「はは、これで準備は万端だな! 早速道にメールしねえと」

 そして俺は道にメールを打ち、相変わらず俺の背中に覆いかぶさってる青の頭を撫でながら、愛伊主演、とりまきたちが助演の喜劇の幕引きに胸を馳せた。

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