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はあ、と俺は盛大にため息をついた。
愛伊は今取りまきたちとどこかへ行ってしまったから、なにかを言われることはない。
……どうしてあの時、あの子を抱きしめてあげられなかったんだ。
あの食堂での邂逅から、3日が経った中、俺はただ後悔だけを感じている。
だって、あの子……俺のイヌ、人に聞いたら西園寺青っていうらしいんだけど、その青が、すごく悲しげだったのに、見ていることしかできなかったんだから。
なにが悲しいの? って聞くことも、一緒にいてあげることもできず、ただ成り行きを見ていただけの自分が腹立たしい。
「……はあ」
また一つため息をついた俺は、とぼとぼと廊下を歩きながら窓の外を見た。
綺麗な空だけど、青の目の色に比べたら全然綺麗じゃないなぁ。……あ、また考えてる。
なにをやっても、なにを考えても、結局は青のことを考えていて、そんな自分にもため息がつきたくなる。
もやもやとした気分のまま歩いていた俺だけど、中庭に差し掛かったところで、愛伊の声が聞こえてきて立ち止まった。……? なにしてんだろ。
そのまま声のほうに行ってみると、そこにいたのは……。
「――……青」
愛伊になにかを言われ、眉を寄せてる青が、そこにいた。
俺は、彼がイヌだってわかってからの初の対面にドキドキと高鳴る胸を抑えながら、少しずつ近づいていく。
でも、近づくにつれて、青の表情がより鮮明にわかった。
なんで、そんなに苦しそうなんだ? 愛伊になにを言われた?
「わかった!? もう! この間のことは、許してあげるって言ってるの! だって、僕が言ったこと、ほんとだったから、ちょっとパニックになっちゃっただけなんでしょっ」
「……っ」
「僕ならわかってるから! 安心してねっ。……あ! そうだ、今から生徒会室行くんだけど、青も一緒に来る? 僕と一緒にいたいでしょ?」
「おい、そいつはダメだ。俺たちだけいればいいだろうが」
青を誘っていた愛伊は、会長に宥められ、「……今回は諦めるけど、次は絶対に来てね!」と渋々取りまきたちに連れられて行った。
……青い瞳を、どす黒く染め上げた青一人残して。
「……あ、ぅぅ、なに、なに……俺、違うって……っうぅ」
どうしたら、この状態の青を一人っきりにして、どこかへ行ってしまえるんだ? なにが自分はこの子のことをわかってるって?
自分の中の感情が抑えられないとでも言うように、中庭の花壇をめちゃくちゃに荒らし始めた青。
きっと、園芸部の子たちが大切に育てたんだろうその花々を、感情に任せて踏みつぶし、引きちぎっていく青に、俺は足早に近づいた。
今、この子は自分の感情をどうしていいのかわからなくて、パニックを起こしてるだけなんだと思う。
きっと、したくてこの花壇をめちゃくちゃにしてるんじゃない。
他の人はどう思うかわからないけど、この行動が俺には、“助けて”って叫んでいるように思えた。
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