どうしたんだ? と首を傾げながら食堂の入口辺りを見てみると、背の高い一人の男が歩いていた。

 どうやらこの男が静まり返ってる食堂の原因らしい。

 相変わらず口にご飯を運ぶのを止めずに、俺はその男に見入る。


 ――すごい、綺麗な黒髪だなぁ。それに、あの青い目も綺麗。そういえば、俺のイヌも青い目だった。見たことないけど。

 ……でも、どうしてそんなに悲しそうなんだ?

 疑問に思いながらも、吸い込まれるみたいな深い青に、見惚れていた俺なんだけど、横から愛伊の、「ね、ねえ! あの人誰!?」という声に意識を戻された。

 あーあ、せっかくのいい気分が。

 でも、正直俺もあの人の情報は気になるかも。

 そう思い、俺は生徒会の話に耳を傾けた。

「ちっ、あれはFクラスの頭がイカレた狂犬野郎だ。危険だから、近づくんじゃねえぞ」

「そうですよ。愛伊、あれは危ない奴なんです。もう何人も病院送りにされてます。ほんとに危険ですから、絶対に近づいちゃだめですよ!

「なっ、なんでそんなひどいこと言うの!? あの人にはきっと、心に傷があったり、事情があるんだよ! そんなトラウマ、僕が癒してあげるっ」

 ……愛伊のその言葉に、少なからずイラっとした。

 なんだって、そんなことが言えるんだよ。あの人のことをどうしてお前が決めてるわけ?

 無性にイライラして、いつものにこやかな顔を忘れて愛伊を睨みつけてしまう。

 まあ、周りは愛伊の言葉に焦っておろおろしてるから気づかないんだけど。


 うーん、でも、どうして俺、こんなにイラついてるんだ? 意味わかんない。

 そうこうしているうちに、愛伊は男の元に行ってしまった。止められなかったのか、取りまきたちは。

 愛伊を追って走っていく取りまきのあとを俺も追う。……だって、なんかいやな感じがするからさ。

「――ねえねえ! あなた、名前なに!? 僕が聞いてるんだから早く答えてよ! あ、僕のことは愛伊って呼んでっ」

「……なにぃ、お前」

「もう! お前じゃなくて愛伊だよっ。早く名前は!? 聞いてるのに、教えないなんてダメなんだよ!?」

「……邪魔ぁ、うるさーい」

 男の前に立ち、喚きたてる愛伊に、眉間にしわを寄せながら呟く男。

 うん、まあ、食堂に来るくらいだからご飯食べに来たんだと思うけど、そりゃ、お腹減ってるところに愛伊みたいなのに出くわしたら怒るに決まってるよな。

 でも、そう呟いた男に、さらにうるさく喚き始めた愛伊と、怒りをあらわにした取りまきたち。

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