自分のイヌがSかM、どちらなのかさえわからないけど、どちらにせよ失望させることは間違いないから、俺はただ謝ることしかできない。ほんとごめんな。

 しかも、俺だってイヌに会いたいから、子供の時におそろいだって言って、青いピアスの片方を送ってしまったんだ。

 片方は俺がつけてさぁ。

 いつか会える時のヒントになるかもって思ったし、道が狗牙に首輪渡してたから羨ましくてさ。
 ……それが余計な望みを与えるかもしんねえのにな。ほんとごめん。


 そんなことをしみじみと考えていたら、最近聞きなれた声が俺の鼓膜を揺さぶった。

「――ねえ! 深海っ、さっきから僕が呼んでるのに、なに考えてるの! 人が話しかけてるの、無視したらダメなんだよ!?」

「え? あ、うん。生嶋、ごめんな」

「もう! 生嶋じゃなくて、愛伊だよっ、でも、謝ったから、許してあげる! 僕は、やさしいからねっ」

 ぷんぷんと効果音がつきそうな怒り方をした生嶋改め愛伊は、俺が謝ったらにこりとほほ笑んだ。
 と言っても、ぼさぼさの髪の毛と、黒ぶち眼鏡のせいで、表情はよくわかんないんだけどな。

 でも、その笑顔に、周りにいる生徒会の人たちや、一匹狼と呼ばれる不良は顔を赤らめている。

 なんでそんな顔をしてんだろう? もしかして愛伊には、俺にはわからない癒しのオーラでも出てるんだろうか。

 首を傾げながらも、俺は自分の前にあるチャーハンをスプーンですくった。んー、やっぱりここのチャーハンはおいしいな!

 ほこほことしながらも、周りの話には耳を傾ける。

 周りでは、愛伊を取り合うような会話が繰り広げられてるけど、これは彼がこの学園に編入してからの日常だから、なんにも思わない。だって、俺には関係ないし。

 愛伊がこの学園にやってきたのは、今から一カ月ほど前のこと。

 2年の、しかも6月という中途半端な時期にやってきた愛伊。どうしてそんな時期に? と疑問に思わないでもなかったけど、特に興味もなかったし、尋ねることはしなかった。

 そんな愛伊は、編入してきた初日から、俺に話しかけてきた。

 俺は自分で言うのもなんだけど、意外ともてる。親衛隊だってあるから、「はは、悪いけど、俺にあんまり話しかけないほうがいいよ」と初めに牽制したんだけど、愛伊から返ってきたのは、「なにそれ! 親衛隊って、そんなの絶対よくないよっ! 僕はそんなものに負けないから! 深海の友達になってあげるっ」という宣言だった。

 ……俺、別に愛伊の友達になんてなりたくなかったんだけどなぁ。

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