『ふふ、いいよ。貸してあげる。……もちろん羽衣にはばれないように、でしょ?』

「あたりまえだろうが。あいつは俺のことだけ考えて、俺のことだけに悩んでればいいんだからよォ」

 そして、傷つけるのも、痛めつけていじめるのも、俺ただ一人でいい。

 そう呟くと……。

『……柏木の人間が……飼い主がMだとイヌがSになるっていうのは、やっぱりほんとなんだね。お前、イヌより飼い主って言われたほうがピンとくるよ』

 ああ? なにふざけたこと言ってやがる。

「……俺は羽衣の“イヌ”だぜ? だからこそこうやって飼い主の憂いを除いてやろうとしてんだろうが。はっ、俺以上の忠犬がいたら見てみてぇな」

『ふんっ、思ってないくせにそんなこと。まあいいや。そろそろこっちも、お前なんかよりはるかに可愛い僕の“忠犬”が帰ってくるから……って、いつからそこにいたの、狗牙』

『――っ、……!』

『はぁ? お前なにを思ってまたそんなこと言ってるの。この間躾けてあげたのに、浮気とかふざけてるの? なに、もしかしてこの間の躾けでもまだ足りないわけ? それとも、躾けられたくてわざと言ってんの変態』

 ……俺に他人の情事を聞く趣味はねえんだけどな。

 言葉攻めは勝手にしてくれ。

 それともなにか、他人に聞かせるっつう新しいテレフォンセックスのつもりか?

 ……羽衣が今度電話してる時に、襲ってみるか。すっげぇ楽しそうだ。

 まあ、羽衣の声を他人に聞かれたくねえから、羽衣にはつながってるふりをして、さっさと切るけどな。

 俺がいることを忘れてんの知らねえが、甘い雰囲気を出し始めた電話の先に、俺は、「じゃあ、頼んだ」と勝手に告げ、電話を切った。

「……んゆぅ」

「はは、かわいーな羽衣」

 もぞもぞと動き、俺の腰にしがみついてきた羽衣の頭をやさしく撫でてやる。

 俺は普段は甘やかしたい派なんだ。まあいじめもするが。

「羽衣、すぐに終わるからな」

 羽衣の首にかけた、鎖を軽く引っ張る。

 ……リードなんて言ったが、これはただこいつを縛りつけておくための鎖だ。

「くくっ、俺は忠犬だからなァ。安心しろ、絶対逃げたりしねぇよ、羽衣」

 それこそ、たとえお前がいやがっても、なァ。

 俺は羽衣の首に巻きつけた鎖を、ガチャリと鳴らした。


 ――そしてその数日後、あのクソ編入生と生徒会役員どもは、学園から姿を消した。

 もちろん、その理由を羽衣は一生知ることはない。

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