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目の奥にほの暗い炎を宿しながらも、やさしい動きで羽衣の頭を撫でていたその時、突然携帯電話が鳴り始めた。
俺は常にマナーモードにしてるし、羽衣のか?
そう思い、携帯の画面を確認すると、“道”という文字。へえ、丁度いいなァ。
にやりと、誰も見てないのを知りながら口端を上げて、通話ボタンを押すと携帯を耳に押しあてた。
『――羽衣、出るの遅いんだけど』
「……」
電話越しにでもわかる、不機嫌そうなそいつ、柏木道を俺は知ってる。
羽衣が俺の飼い主だって知った時に、調べたからなァ。
『……羽衣? どうしたの。黙ってるなんてどういうつもり――』
「羽衣なら、寝てるぜ? 俺の隣でぐっすりとなァ」
『……誰、お前。羽衣が寝てるってどういうこと?』
「あ? ああ、さっきまで激しくしちまったからなァ。当分起きねえよ」
笑い混じりに言ってやれば、突然黙る柏木道。
……そして電話越しに、「そっか」という納得したような呟きが耳に届いた。
『お前、羽衣の“イヌ”でしょ』
確信したようなそれに、「ああ」と肯定する。
最初から隠しておくつもりなんてねえしな。
それに、今からちょっとした頼みごとをしなけりゃいけねえから。
『羽衣のイヌが、僕に一体なんの用?』
「ああ、話が早くて助かる」
『前置きはいいからさ、早く言ってくれる? 嫉妬深い僕のイヌが帰ってくる前に』
「わぁってるよ。実はなァ……ちょっと協力してもらいてぇことがあるんだよ」
にやりと笑みを浮かべながら、楽しくて仕方がないという笑いを含み口にする。
俺の言葉に、柏木道は「なに」と催促した。
それを焦らすことなく、俺は用件だけを告げる。
「うちの学園の生徒会を叩き潰すために、手ぇ貸してくんねえか?」
『はぁ? そんなのお前一人でもできるでしょ。イヌの家系なんだからさ』
「ははっ、俺一人でやったってやつらを潰すことしかできねえだろ? 俺はやつらを徹底的に潰してえんだよォ。一生地べたを這いまわるようになァ」
そしてもう二度と羽衣に話かけるどころか、羽衣の目がやつらのことを少しも視界に入れることのないようにしてやりたい。
一番手っ取り早いのはやつらを消しちまうことだが、羽衣に傷をつけたやつらに、そんな生ぬるい処置はしたくねえ。
俺の飼い主に傷をつけたこと、一生後悔させてやる。
そのためには、俺の家だけでは物足りねえんだよ。
その意を伝えると、呆気にとられたような声と、ため息……それに楽しそうな声も聞こえてきた。
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