忠犬
「ふっ……寝たか」
そりゃそうだろうなァ、と思いながら俺は隣ですやすや眠っている、最愛の飼い主、羽衣の頭をそろりと撫でた。
それにしても……。
ついさっきまで、俺の下で痛みと快感に喘いでいた姿を思い出し、俺は笑みをこぼす。
羽衣は、自分がマゾの気があるのを悩んでいたらしいが、俺からしてみればその悩みはまじで可愛すぎると思う。
それと同時に、そんな可愛いやつが、俺の飼い主でよかった、とも。
羽衣がこの学園に来てすぐ、俺は羽衣が飼い主だって、もちろん気づいた。
羽衣も気づいてたみてえだが、俺の性癖を疑い言いだせずにいたようだ。それもまた可愛いが。
悩んでた羽衣はそれはそれは可愛かった。
俺に会う度に、いじめられたそうに見上げられんのもすげえそそられた。
当分、そんな感じに焦らしてやろうって思ってたんだがなァ。
俺の、羽衣の可愛い姿を見るという楽しみは、突然やってきたクソみてえな編入生によって打ち砕かれちまった。
俺に対して初対面で、「今までずっと一人だったんだろ! 大丈夫だ! これからは俺がいるからな!」と言ったことはうぜぇことこの上ないが、まあ許そう。
だけどな、あの純粋な羽衣に対して、「セフレがいっぱいいるなんて最低だ! そんなの虚しいだけだろっ!? 俺がそばにいてやるから!」と言ったのには腸が煮えくりかえった。
あのふわふわしてる羽衣に、セフレなんてもんいるわけねえだろ。
つうかもしそんなもん作ろうとしたらその前に俺が調教してるっつうの。
なにより腹が立ったのは、やつの自分が傍にいるという言葉。
……羽衣の傍にいるのは、あいつの飼い犬である俺だけでいい。
ただ、やつが俺にからんでくる度に、寂しそうな悲しそうな顔をする羽衣にはほんとにそそられた。
まあ、その分甘やかしてやりたくもなったが。
俺が、その羽衣の顔を少し堪能したい……そう思ったのが、間違いだったな。
「ちっ……こんな痕つけやがって」
羽衣に傷も痕も、つけるのは俺だけでいいのに、今羽衣の身体には俺以外がつけた痕がある。
上から噛みついて塗りつぶしたことで少しは払拭された不愉快さも、痕が消えたわけじゃねえっつうのを理解する度に、ひしひしと湧きあがってくる。
ああ、早く名乗り出ればよかったなァ。
あの腐れ編入生と生徒会どもを叩き潰して。
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