全身に噛みつかれ、喘ぎながらも息をつきながら、俺はふと思った。

 ……あれ、というか先輩……もしかしなくてもドSなんじゃないの?

 俺がいきなり不思議そうな目で見つめたからだと思うけど、一瞬訝しげな顔をした先輩に、俺はバカ正直にも、「先輩って……ドS?」なんて聞いてしまった。

 場違いにも、ほどがあるよね……。

 そんな俺の問いに、先輩は楽しげに笑う。

「ははっ、イヌだからドMだとでも思ってたか? なぁ、ご主人様」

「えっ……ご主人様、って……知って!?」

「あ? あたりまえだろうが。最初から気づいてたぜ? まあ、お前がドMだって悩んでるのが可愛くて黙ってたけどなぁ」

「っ……!」

「いじめてほしそうに俺のこと見るんだもんなァ……すげぇ、可愛かった」

 にやりと笑う先輩に、俺はもうなにも言うことができず視線を泳がせた。

 そっか……先輩、気づいてくれてたんだ。

 それが嬉しくて、先輩がいじわるしてたなんて気にならないほど……むしろそれすら嬉しく思ってると、なぜか先輩が俺の上からどいた。

 ど、どうしたんだろう……?

 机の引き出しを探って、なにかを手に持って戻ってきた先輩に、俺は首を傾げる。

 先輩の手に握られていたのは、首輪、だった。

 え……普通首輪って俺からイヌである先輩に渡すんじゃないの?

「んな不思議そうな顔すんなよ。泣かせたくなるだろ」

「っ、あ、あの……それ」

「あ? ああ。これはリードだ、リード。飼い主がイヌのリードを握るのはあたりまえだろうが」

「えっ……でも、それ」

 見るからに首輪なんですけどー。

 それも、鎖でできた首輪。

 よく見ると、先輩のもう一つの手には、黒い首輪が握られていて、俺の視線がそっちに向いたとわかると、先輩が自分の首にそれをつけた。

「こっちは俺の。まあ、お前に本物もらうまでのニセもんだけどなァ。……で、これがお前の」

「ぁ、えっ」

「……ああ、やっぱりすげえ似合う」

「! ぁ……ひえっ」

 首に、相馬先輩いわくリードをつけられた俺は、驚く間もなく先輩にそのままその鎖を引かれた。

 ぐいっと強く引かれて、痛みにまた涙目になる。

「ははっ……イヌがリード引っ張るなんて普通だろうが。なに泣いてんだよ」

「なっ、だ、って」

「あーあ。だらしねえ飼い主だなァ」

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