さっきまでは温かくて甘い声で囁いてくれたのに、いきなり変わった先輩の温度に、俺はびくりと怯えた。

 でも、その冷たさが、少しだけ心地いい。

 なにが先輩の気に障ったかわからないから、嫌われたんじゃないのかっていう不安がたしかにあるけど、俺はそう感じた。

「せん、ぱい……」

「羽衣、お前さぁ、なんであんなやつらに傷つけさせてんだ? あ? まじでふざけてんじゃねえぞ、おい」

 服をびりびりと破り捨てられ、ぼろぼろの上半身を見た先輩は、思いっきり眉をひそめた。

「ぅっ、いっ、たぁ!」

「はっ、痛いじゃねえだろうがよぉ。気持ちいいんだろ? なぁ、あいつらに殴られても、そんなふうによがってたのか、お前」

 お腹を抑えつけられて、痛みに喘ぎながらも先輩のひどい言葉に、「違うよぉ」と泣きそうになる。

 そんな俺に先輩は満足そうな顔でにやりと笑った。

「ははっ、わかってるっつうの。つうか、もしあんなのによがりでもしたら、俺にしか感じねえように、躾けるから」

「……え、な、なに……いっぁ!」

「……まじでいいなぁ、その顔。すげぇそそられる。……俺が傷つけた傷じゃねえっつうのが、腹立つけど」

 またお腹の傷をぐりぐりと抑えつけられて、俺は呻いた。

 痛くて痛くて、でも、会長たちにやられた時には痛みしか感じなかったのに、相馬先輩に傷を押さえつけられると、痛いけど、少し気持ちいいというわけわかんない気持ちになる。


 先輩は、その後も数分、俺のアザを抑えつけ続けた。

 でも、そのうち、なぜかまた不機嫌になって、俺のことを睨みつける先輩。

「……羽衣、これ、全部上塗りしてもいいか?」

「えっ……? な、にを?」

「だから、こうやって……」

「ぁあ!? いたっ、痛いっ! ぁ、や!」

 殴られてできたアザに、先輩がぎりぎりと噛みついた。

 容赦のない痛みに、思わず身体を逃がそうとするけど、上からしっかりと抑えつけられてそれもできない。

「ぅぁ、ったい、よぉ……ふぇ」

「あー、やべ。ほら、もっと泣けよ羽衣」

「いっ、ぅあ! いたい、の! そ、ませんぱっ……いっ」

 痛くて、でも気持ちよくて……もうなにがなんだかわからないよぉ。

 じたばたと暴れる俺を押さえつけ、先輩はアザの一つ一つに、血が滲むような歯型をつけていく。

 痛すぎるのは嫌いだし、暴力は嫌い。

 ……でも、やっぱり相馬先輩がすると、なぜかすごく気持ちがいい。

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