6
さっきまでは温かくて甘い声で囁いてくれたのに、いきなり変わった先輩の温度に、俺はびくりと怯えた。
でも、その冷たさが、少しだけ心地いい。
なにが先輩の気に障ったかわからないから、嫌われたんじゃないのかっていう不安がたしかにあるけど、俺はそう感じた。
「せん、ぱい……」
「羽衣、お前さぁ、なんであんなやつらに傷つけさせてんだ? あ? まじでふざけてんじゃねえぞ、おい」
服をびりびりと破り捨てられ、ぼろぼろの上半身を見た先輩は、思いっきり眉をひそめた。
「ぅっ、いっ、たぁ!」
「はっ、痛いじゃねえだろうがよぉ。気持ちいいんだろ? なぁ、あいつらに殴られても、そんなふうによがってたのか、お前」
お腹を抑えつけられて、痛みに喘ぎながらも先輩のひどい言葉に、「違うよぉ」と泣きそうになる。
そんな俺に先輩は満足そうな顔でにやりと笑った。
「ははっ、わかってるっつうの。つうか、もしあんなのによがりでもしたら、俺にしか感じねえように、躾けるから」
「……え、な、なに……いっぁ!」
「……まじでいいなぁ、その顔。すげぇそそられる。……俺が傷つけた傷じゃねえっつうのが、腹立つけど」
またお腹の傷をぐりぐりと抑えつけられて、俺は呻いた。
痛くて痛くて、でも、会長たちにやられた時には痛みしか感じなかったのに、相馬先輩に傷を押さえつけられると、痛いけど、少し気持ちいいというわけわかんない気持ちになる。
先輩は、その後も数分、俺のアザを抑えつけ続けた。
でも、そのうち、なぜかまた不機嫌になって、俺のことを睨みつける先輩。
「……羽衣、これ、全部上塗りしてもいいか?」
「えっ……? な、にを?」
「だから、こうやって……」
「ぁあ!? いたっ、痛いっ! ぁ、や!」
殴られてできたアザに、先輩がぎりぎりと噛みついた。
容赦のない痛みに、思わず身体を逃がそうとするけど、上からしっかりと抑えつけられてそれもできない。
「ぅぁ、ったい、よぉ……ふぇ」
「あー、やべ。ほら、もっと泣けよ羽衣」
「いっ、ぅあ! いたい、の! そ、ませんぱっ……いっ」
痛くて、でも気持ちよくて……もうなにがなんだかわからないよぉ。
じたばたと暴れる俺を押さえつけ、先輩はアザの一つ一つに、血が滲むような歯型をつけていく。
痛すぎるのは嫌いだし、暴力は嫌い。
……でも、やっぱり相馬先輩がすると、なぜかすごく気持ちがいい。
- 33 -
[*前] | [次#]
(6/14)
戻る