道に電話してから数日経っても、やっぱり俺と先輩の仲に進展なんてない。

 相変わらず当たり障りのない話しかできなくて、地味に落ち込んでいた時に、それは起こった。

「――っぅ、ぐっ」

「てめえ、まじで調子に乗ってんじゃねえぞ」

「なっ、な、に……っぅぁ!」

 悪い予感が当たったっていう感じ、かなぁ。

 生徒会室で、有村くんがいないにも関わらず、いやな感じのする視線を浴びていた矢先、なぜか突然会長に蹴り飛ばされてしまった。

 まさかいきなりそんなことされるなんて思わなくて、少し衝撃を和らげることもできず俺は床に背中を打ちつける。

 痛みに呻いてる俺に、会長は容赦なくて、痛みにうずくまる俺の髪を鷲掴みにすると、ぎりぎりと力を込めた。

「いっ……!」

「秋に気に入られてるからってよぉ、言い気になってんじゃねえよ、クソチャラ男が。殺すぞ」

「がっ、ぁ……っ」

 ひどすぎる痛みに、涙を浮かべながら、思わず助けを求めるように、他の生徒会メンバーを見渡す俺だけど……予想通り、他のメンバーも俺のことをただただ殺意の込められた目で睨みつけてるだけ。

 ――他の人たちも、暴力に加わるのは、そう時間がかからなかった。

「てめえなんか、セフレとよろしくやっとけばいいんだよぉ。秋に手ぇ出しやがって、許さねえ!」

「そうですよ、秋がやさしいからって……そのやさしい心につけこむなんて、人間としてどうなんでしょう」

「……さいてい」

 俺にセフレなんていないし、あの子に手なんか出してない。
 でも、暴力が続く中、そんな言い訳もできなくて。

 全身の痛みに耐えていたその時、ふいに生徒会室の扉が開いた。

「――おい! お前ら、遊びにきてやったぞ!」

「っ、た、すけ……っ」

「なっ、なにやってんだ!」

 扉の向こうにいたのは、有村くん、だった。よかった……これで、助けてもらえる。

 ほっと安心しながら、涙目のまま有村くんに助けを求めた俺、だったんだけど……。

「お前ら! 羽衣は仲間だろっ!? どうしてこんなにひどいことするんだ!」

 騒ぐ有村くんに、副会長が悲しげに顔を歪めながら、言った。

「秋、僕たちは君のために……。柏木は最低なんですよ。秋がセフレを作るのをやめるように言ったのにセフレがいることを、僕たちが注意したんです。……そうしたら、柏木は、秋に対してひどいことを……っ、だから、僕たちは……っ許してください、秋」

 なに、それ……。

 身に覚えのなさすぎることをつらつらと言われ、俺は混乱する頭で有村くんを見た。

 ……そこには、俺にきつい視線を浴びせながらも、瞳の奥底には優越感を抱いている、有村くんがいた。

「羽衣! 俺、お前のこと信じてたのに、最低だっ! ……お前らも俺のためにやってくれたんだな!」

「ああ。あたりまえだろ? なあ、お前のためなんだから、いいよなぁ? 俺らこと、許してくれるよなぁ」

「もちろんだ! 羽衣は悪い奴だからな! こらしめてやらないとっ」

 ――俺にとってはぞっとするような顔でにっこりと笑った有村くんの、その一言で、また暴力は始まる。

 やだよ……痛い。

「っ、ぅ……そ、ませんぱっ……ぐっ」

 ……助けて、相馬、先輩……っ。
 もう、性癖がどうとか、わがまま言わないからっ。

 痛みにうずくまるなか、俺はずっと相馬先輩のことを考えていた。

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