『――はぁ? ドSになる方法? ばっかじゃないのお前』

「ぅう、ひどいこと言わないでよぉ、道〜」

 あの後、生徒会室へと引きずられていった俺は、またいつものように他の生徒会メンバーの人たちから心臓が痛くなるくらい冷たい憎悪の籠った目で睨みつけられ、それに耐えたながら一人で仕事をした後一人自室に帰ってきていた。
 他の役員たちは、最近仕事をしてくれないから。注意しても睨まれるだけだし。

 ……あそこまであからさまに俺のことを嫌ってるっていう視線を浴びて快感を覚えるなんて、さすがに俺にはできませんから。

 自分が言うのもなんだけど、俺、ちょっとだけMなだけだからね。

 まああの人たちに睨みつけられるのは、有村くんが来てからずっとだからもう慣れたんだけど、なんだか最近むしょうにいやな感じなんだよねぇ。

 それで、逃げるみたいに一人で帰った後、早速いとこ……道に電話をかけたんだけど。

 説明した途端、ひとことめがバカってひどくなぁい?

『うざい。どうせひどいこと、なんて思ってないでしょ。嬉しいくせに』

「う、嬉しくなんてないもん!」

『嘘言わないでくれる? Mのくせに、僕に逆らうつもりなの』

 電話越しでもわかる冷気に、俺はびくっと身体を震わせながらも、「さ、逆らわないよー」と言った。

 す、少ししか嬉しいなんて思ってないんだからー。

 それに、道に言われたから嬉しいんじゃなくて、それを先輩に言われたらって想像して嬉しくなっただけなんだからね!

『ふふ、それでいいの。それに、お前の性癖なんてくだらない悩み、心配しなくても大丈夫なんだから』

「ふぇっ? 心配しなくても大丈夫って、どういう……」

『ああ、それは――って、ちょっと、狗牙! お前少しくらい待てができないの?』

『――! ……っ』

『は? 浮気って、バカなんじゃないの? なに、お前いつ僕のことを疑えるほど偉くなったわけ。躾が足りなかったの?』

 電話越しの会話を聞きながら、俺は羨ましくて仕方がなかった。

 いいなぁ、こういう関係。俺が柏木家じゃなくて、イヌが育つ家で育ってたら、こんな関係を築くことができたのかなぁ。
 それで、相馬先輩が柏木家で俺の飼い主だったら、最高だったのにー。

『狗牙、抵抗したらお仕置きだから……って、そんなに嬉しそうな顔しないの。可愛いんだから。……ねえ、羽衣』

「ぅぁっ? は、はい……っ」

『まあ、お前の性癖に関しては、心配なんてまったくいらないからね。じゃあね』

「ちょっ、道? どういう意味――」

 ツーツーと無情にも鳴り響く通話が切られた音。

 ……いいなぁ、狗牙さん。道にいじめられたい、なんてこれっぽっちも思わない……というかむしろ、相馬先輩以外にいじめられたい、なんて思わないから、正確には狗牙さんが羨ましいわけじゃないんだけどね。

 あーあ、先輩にいじめてもらえるなら、なんでも気持ちいいと思うのに。

 すごく痛いのは嫌いだし、暴力なんていやだけど、先輩に殴られたら、気持ちいいだろうって思う俺って、やっぱりどこかおかしいのかなぁ。

 なんか、こう考えてると、Mでもない気がして、少しだけ悩む。……なんだろう、相馬先輩限定ドM? ……なんか自分で言ってて恥ずかしい。

 俺は自分の考えに顔を赤くしながらも、切れた携帯を未練たらしく見つめ続けた。

 道……心配いらないってどういう意味なんだよぉ。最後まで言ってよー。

 そんなことを考えるのも、無理ないでしょ。

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