すごく痛いのは嫌い。

 ……でも、少し痛いのは好き。

 俺、柏木羽衣が自分のそんな性癖に気づいたのは、もう思い出せないくらい前のことだったかなぁ。

 俺が生まれた柏木家って、俺みたいないじめられるのが好きっていうんじゃなくて、ドSが生まれる家系なのに、不思議だよねー。

 現に、俺のいとこなんかはすんごいドSの女王様なんだから!

 自分のイヌの泣き顔が好きなんだよぉ? 首輪なんかプレゼントしたらしいし。


 あ、イヌっていうのは、俺たち柏木家の人間が、5歳の時から与えられる人間のことなんだけど、そのイヌになる人は、柏木家の性癖に合わせてドMでいじめられることが好きな人が多いんだって。

 いとこも言ってたんだけど、いとこのイヌも、いじめると喜んでるんだってー。……羨ましい。

 そんな柏木家に生まれた俺にも、イヌがいるんだけど……ほら、俺ってむしろ柏木家としては正反対の性癖を持ってるからさ。

 俺のイヌには会いたい。

 でも、俺のこんな性癖を知って、もし幻滅されたら? って思うと、会えないんだ。

 だってさぁ、俺のイヌもいとこのイヌと同じように、いじめられるのが好きだったらどうするの。

 俺、いじめられるの、好きだけど、人をいじめたりできないもん。……ほんと、なんでこんな性格に生まれたんだろ。


 そう思ったらせっかく、俺が通ってる学園で、俺のイヌに出会ったのに、なにもないような会話をするとか、すれ違うことしかできない。

「おい! 剣! こんなところでなにしてんだよ!」

「あ? ……ちっ、クズがこっちに近づくんじゃねえ」

「なっ、ひどいこと言うなよ! 最低だっ」

 だから、最近学園に編入してきた、明るい茶髪に大きな目でとっても可愛い容姿の、有村くんが、俺のイヌである相馬先輩に喚いてるのを俺は少し悲しくなりながら聞いてた。

 うう、俺だって、話しかけたいのに。

 俺はそんなことを考えながら、鬱陶しげに有村くんを睨みつけている相馬先輩を見た。

 いつ見ても、真っ赤な色に染められた髪の毛がかっこよくてすごく似合ってると思う。

 有村くんに対してみたいな、鬱陶しがるような目で、じゃなくて、愛のある目で睨みつけてほしい、蔑んでほしい。
 でも……こんなにドSっぽい見た目なのに、やっぱり先輩もいじめられるのが好きなんだろうなぁ。

 だって、いとこのイヌも見ためと性格はSっぽいんだ。なのに、いとこに対してはドMなんだよ?

「……おい、羽衣? どうしたんだ」

「ぅえっ? あ、な、なんでもないですー」

 しょんぼりしていたところで、急に相馬先輩に話しかけられてどもりながらも答える。

 わぁ、先輩に話しかけてもらっちゃったぁ。

 現金なことに、それだけですごくテンションが上がる俺。うう、なんてお手軽なんだろう。

 俺はドSじゃないから、先輩を楽しませることはできない。

 だから自分が主だって言うことができないんだけど、でも、それでも話したいし、近くにいたいんだ。

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