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イヌの躾が終わり、それから五日後のこと。
イヌはあれから僕のそばを、会長としての仕事がある時以外、離れなくなった。
親衛隊ははどうするかなあと思っていたんだけど、僕が怖いのか、やっぱり近寄ってすら来ない。ほんとに度胸がないね。
一度ぼこられて放置されたくらいで。
僕のイヌはむしろ喜ぶのにね。
「道、なに考えてやがる」
「ん? なんでもないよ」
「……俺のこと以外考えんじゃねえ」
どうやらイヌは僕がイヌ以外のことを考えているのが気に入らないらしい。
イヌは独占欲も強かったと最近判明した。
教室だとイヌがいると面倒だから、今僕とイヌは二人で生徒会室にいる。
ぶりっことか他の生徒会のメンバーどもは、どっかで遊び呆けてるみたい。
僕のイヌに仕事を押しつけるなんて何様のつもりなのかなあ。
仕事疲れなのか、目の下にうっすらと隈を作り、表情にもあまり覇気のないイヌの頭を僕はやさしく撫でてやる。
躾が終わった後のイヌは僕にすごく従順だ。
言葉遣いは相変わらず俺様だけど、それもほんとに可愛い。
だって、今も、自分のこと以外考えるなって言った後、僕のことを窺うようにして見てくるんだよ? 可愛いでしょ。
「ふふ、大丈夫。ただあのぶりっこをどうしてやろうかと思って」
にっこりと笑う僕に、イヌはまたむっとした顔をする。今度はなに。
「……お前が俺を一番に考えてねえことが、気に入らねえ」
拗ねたように言うイヌ。
お前ちょっと前までぶりっこのこと飼い主だと思ってたくせに、すごい言いようだね。
まあイヌに聞いた話では、突き飛ばされて、「俺を突き飛ばせるなんて……まさかあの人?」と思っただけらしい。
それだけで飼い主だと判断するなんて浅い考えだけどね。
だからイヌのぶりっこへの思いなんてちっぽけなんだと思う。
名前なんて知らなかったけど、ずっと交流してた僕とイヌとは全然違うんだ。
僕は不機嫌そうな顔をするイヌをぐいっと引きよせ、耳元で囁く。
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