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「道……」

「なに?」

「いや、その……」

 さっきから続いてる押し問答。なんなのさ一体。

 イヌが運んでくれたから、僕は今イヌの部屋にいた。もちろん身体はもう洗っている。

 お風呂から上がった僕を待っていたのは、気まずそうに眼を泳がせるイヌだった。
 ……後悔するくらいなら、最初から気づきなよ。

 多分イヌはぶりっこのことを飼い主だなんて勘違いをしたことを後悔しているのだろう。

 まあそれについてはさっき躾をしたからもういいんだけど。

 でも、さっきからほんとに鬱陶しい。いい加減にして。

 僕はイヌを、まるでほんとの犬を呼ぶ時みたいな仕種で近くに呼びつけると、目の前にひざまづかせた。

「言いたいことがあるならはっきり言いな。鬱陶しいよ」

「っ……怒ってるか? 俺が勘違いしたこと」

 やっぱりね。イヌは男らしい顔に苦痛の色を浮かべながら、僕のことを見つめる。

 僕はそんなイヌににっこりと笑いかけた。

「ふふ、もちろん怒ってるよ。あたりまえでしょ?」

「……っ」

 僕の答えに絶望したような顔をするイヌ。

「……あは、大丈夫、嘘だよ。もう怒ってないから、そんな顔しないの。可愛いけど」

 その顔がすごく可愛くて、僕はイヌの頭を撫でてやる。

 さっき躾は終わったんだよ? 今さら怒ってないよ。僕はそんなに狭量じゃないから。

 イヌのベッドに腰掛け、僕の前にひざまづいてるイヌを見つめる。
 イヌは僕が言いたいことがわかったのか、キラキラと目を輝かせ、するりと僕の腰に手を回してきた。

 さっきちゃんと謝ったからご褒美もあげたのに、それでも不安になるなんて、なんて可愛いイヌなんだろうね。僕のイヌは。

「道、もう絶対お前を間違えたりしねえ。だから、絶対、俺を捨てるな……」

 イヌのくせに不遜な物言い。でもそれがまた僕のイヌの可愛いところでもあると思う。

 ……僕の答えが怖くて、僕を離さないように抱きしめる腕に力を込めるところもね。

 僕は腰に巻きつくイヌの頭を撫でながら、ふわりとほほ笑んだ。

「あたりまえでしょ。お前は僕のイヌなんだから、ずっと僕のそばにいればいいの」

 僕はイヌがおイタをしないかぎり、捨てるなんてことありえない。
 だからイヌが僕のそばを離れなければ僕らはずっと一緒だ。

 まあ、離れようとしても離さないけど。

 イヌも離れる気はないとでも言いたげに、僕のお腹に頭をすりつけた。

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