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「――お前、飼い主があのぶりっことか言ってたよね? あ、もしかして僕に捨てられたかったとか?」
僕の言葉を聞いて、イヌが目を見開いた。
僕の言おうとしてることがわかったのかなあ? でもそんな顔しても、やめてあげないよ?
「ふふ、じゃあお望み通り捨ててあげようか」
「なっ、い、いやだ……!」
「なに言ってるの。いやじゃないでしょ? 嬉しいくせに」
僕はそこでわざとなにかを思い出したような表情をして、「……あ」と呟いた。
そしてにっこりと冷笑を浮かべて、イヌに声をかけた。
「それもいらないよねえ……?」
「? なに言って……」
言いながら教卓から降りて、未だに床に膝をついているイヌに近寄る。
イヌは僕が寄って行ったことに希望でも感じたのか、じっと僕のことを見つめてきた。
そんなイヌに気づきながら、僕はにっこりと笑って、やつにとっては死刑宣告と同意味なことを告げてやる。
「――いらないでしょ、この首輪」
そう言い、イヌの首輪に手をかけた。
僕の言葉と行動で、どういうことか察したのか、イヌが絶望したような顔で目を見開く。
僕はそんなイヌの顔にほほ笑みたくなるのを必死に堪えた。
だって絶望したっていうイヌの顔、すごく可愛いんだもん。
「い、やだ……いやだっ!」
「……お前に拒否権なんかないよ。いいから大人しくしてなよ」
「ぐあぁ……っ」
僕に首輪を取られるのがいやなのか、イヌが暴れ出す。
僕はそんなイヌの身体に容赦なく蹴りを加えた。
それでも大人しくならないから、僕は蹴り転がして仰向けになったイヌの上に乗り、身動きが取れないようにしてやった。
「……動くなって言ってるんだけど。お前には学習能力もないの?」
僕に捨てられるかもしれないという恐怖感から目に涙を浮かべるイヌ。
なにも泣かなくてもいいのに。まあ可愛いからいいか。
僕はにっこりと笑いかける。
イヌはそんな僕にまた冷たい笑みでも向けられると思ったのか、身体を捩って僕の下から抜け出そうとする。
僕と犬にはかなり体格差があるから、イヌが本気を出したらすぐに抜け出せてしまえるだろう。
どうしようかなあと考えていたその時、身体を捩っていたイヌが、いきなり、「……ぅっ」と小さく声をあげた。
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