そのまま二人で静かな廊下を歩いてたんだけど、廊下の向こうからなにかの音が響いてるのに気づく。

 ……? なんだろう、この音……というか、声?

 よく聞いてみると、それが音じゃなくて誰かが叫んでいるような声だと言うことに気づいた。すごい大きな声。一体誰なんだろう?

 ふっと新さんを見ると訝しげに眉をひそめている。わぁ、なんだかこんな顔も様になるなぁ。

 そんな場違いなことを思っている僕を余所に、その声はどんどん僕らのほうに近づいて来た。

「ちっ……なんかいやな予感。……海、こっち来い」

「ぅえっ? あ、新さんっ?」

「いい子だから、ほら」

「わぁっ!」

 ぐいっと引っ張られて、近くの空き教室に入ることになってしまった。

 ど、どうしよう……。勝手に入ってもいいの?

 あわあわとそんなことを考えていたんだけど、そんな僕を落ち着かせるように新さんが、「しぃー」と口元に指を一本立てた。

「静かに、な?」

「は、はい……ごめんなさい」

「ん、いい子だ」

 よしよしと褒めるように頭を撫でられる。なんだか顔に熱がこもってる気がした。うう、恥ずかしいよぉ。

 教室の扉を少しだけ開けて、その小さな隙間から新さんと一緒に廊下の向こうからやってくる人を待つ。うーん、一体誰なんだろう?

 そう考えながらも僕は、じっと動かず静かに目を凝らし続けた。


 ――そんな僕の視界に入ってきたのは、なにかにすごく怒ってるような顔で歩いてくる空だった。

 思わずびくりと身体を震わせた僕だけど、その瞬間後ろから新さんに抱きしめられて、ふうと身体から力を抜くことができた。

 でも、空はなんでこんなに怒ってるんだろう? なにがあったの?

 困惑している僕がいるなんて知らないはずなのに、僕らがいた教室の少し手前で止まった空は、口を開いた。

「――くそっ、なんでだ、なんでだよ! どうして皆俺から離れていくんだっ、俺は愛されるべき存在なのに!」

 聞き耳なんて立てなくてもいいくらいはっきりと聞こえた空のセリフ。

 僕にとっては、昔から空が言っていたことだから、聞き覚えがある。

 それに、空はとっても明るい性格で誰からも愛されるなんてこと、知り尽くしてるから。……ううん。そう思ってた。

 だって、そんな空でも、皆から愛されるわけじゃないって最近初めて知ったから。

 皆から愛されるはずの空のことを嫌いだっていう人が、実際に近くにいるんだもの。

 僕は思わず新さんのことを見上げた。新さんはすごく眉間にしわを寄せていてちょっとだけ怖かったんだけど、僕と目が合うとすぐに柔らかい視線で見返してくれる。それがすごく嬉しい。

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