only one
今日はバレンタイン。女の子が好きな男の子に、チョコレートを渡す日。
「チョコレート、イタチさん貰ったことありますか?」
「…ああ」
「へえ、すごいですねえ、何人くらいから?」
「…三十…くらい」
ぶはっ、と鬼鮫が茶を噴いた。話ながら薄々感じていたのだが、どうもこの手の話はお互い気まずくなってしまう。
「お前は」
と口を開いてから、イタチは後悔した。鬼鮫のモテ期は、まだ1回も来ていないはずだ。
「ぜろ」
ぶっきらぼうに答える鬼鮫を見て、申し訳なく思った。
自分も魚顔に生まれたらよかったなあ、イタチじゃなくてクジラでよかったのに、なんて、思っていたら鬼鮫が口を開いた。
「でも今年は」
ず、図にのるな!そして自分を過大評価するな。そのチョコレートはどうせえっちな店の女の子が営業用に渡すものである。それに愛なんてない。あるのは寂しさだけ。というか鬼鮫が女の子からチョコレートを貰うなんて腹ただしい。貰うな!貰うな!その女は何も知らない、首筋がとおっていて鎖骨ががっしりしていて、でも誰よりも優しいお前のことなんて。
「…貰うなよ」
「え?」
「俺が買ってやるから、そんな訳のわからん女からチョコレートを貰うな」
鬼鮫は何のことですか、と言いながら笑う。とぼけるな、お前はどうせえっちな店の女の子からチョコレートを貰って喜ぶつもりだろう!
「行ってないですよ」
「うそだ」
「ほんとですって」
「じゃあ誰がお前なんかに、」
チョコレートを渡すんだ、と言ったら笑われた。
「イタチさんから貰うのが、生涯唯一のチョコレートですよ」
まだ渡してないのに。これじゃ渡さない訳にいかないじゃないか!
2011 / Saint Valentine's Day