カニバリズム
R15 グロテスクな表現を含みます。
死にたいとは思わないが、生きていてもつまらないと思う。もちろんこの命を手に入れてすぐは、自分が神にでもなったような気がして、不死の素晴らしさに幾度となく歓喜した。しかし何年もこうしていると、実に下らないものだったと思う。不死は人類が憧れた、いわば幻想でよかったのだ。
「血も骨も髪も全部、食べちゃえば死ねるかなあ。」
不死の定義についての疑問。例えば細胞単位でバラバラになった場合でも、生きていられるのだろうか。試したことは無いから分からないけれど、そこまでくると、それはもう一種の呪いなんじゃないか。
角都はとても不満気な表情で反論する。
「それでも死ねなかったらどうする。」
死ななかったら、でなく、死ねなかったら、と、表現する角都が愛おしい。
「そんときは細胞になってるだろうから、お前の体内でどろどろになって生きるよ。」
角都の胃の中ってどんな感じかなあ、胃液のプールは気持ちいいかなあ。最後はトイレに流されるんだろうけど、それだって、たまらないくらいの快感。
眉間に皺を寄せた角都を見て、非情だとか愛情だとか、そういうもので表現できない、大きすぎる存在を感じた。生きる意味なんて知らないけれど、ただなんとなく過ごす時の中で、絶望しなかったのは角都が居たからだと思ってる。ひとりきりの世界なら、生きる糧なんて何も無い。
唾液で汚れた指を、差し出した。
「喰べてみる?」
「喰べてみる?」
相方はカニバリズムに性的興奮を覚えるような奴だったのか。おかしい奴だとは思っていたが、ようやく確信した。どうもこいつは神経がずれている。
「生憎、俺はそんな性癖、持ち合わせてなくてな。」
気持ち悪い、哀れな、醜い、子供、
「ふうん、そう、じゃあいいや」
拍子抜けした、あの声を聞きながら思う。
本当に死にたいなら、俺が全部食べてやるのに、と。
あいつの血肉、全てを身体に取り込めば、俺も死ななくなったりして。