幸せって何。戦いが続くと嫌でも考えてしまう。

残ったのは虚無感





木陰で雨宿りをしよう。私達を狙う忍から逃げる道中、もう夜が明ける頃だった。
隣でチャクラを消費した彼は、瞳を閉じている。今敵が来たら、私が彼を守らなくてはならない。

「はあ・・・」
ため息が出てしまう。どうして毎日、命を狙われなければならないのか。少しの間でいいから、平穏な暮らしがしたい。


幸せとは何か。
ご飯を食べること、睡眠をとること、それらが出来るだけで幸せ、ましてや生きてるだけで幸せだとか、そういうのが嫌いだった。それは生きるのに必要な行動なのであって、幸せとは違うと思う。暖かい家族の愛なんて私には分からないけれど、少なくともそういうのが幸せなんじゃないか、と。

雨がいっそう強くなる。彼が濡れないように、自分のコートをかけて、青白い顔からこぼれる水滴を、丁寧にぬぐってやる。

「彼方も私も、甘えるのが下手なんですね。」

こうして一方通行でしか行動できない、それでも、こうして彼を守ることが出来る。
今まで数多の忍を殺してきたこの手で彼に触れることは、許されることではないのかもしれないけれど。

幸せなんて、望んではいけないのかもしれない。
生まれてからずっと仲間殺しを続けてきた私には、きっと不幸が似合うのだ。馬鹿で惨めで、こんなにも愛しい人にすら、触れるのをためらってしまうのは、そういう境遇のせい?

「あ、」

白んだ空に見える人影、あれはさっきの忍ではないか。この距離ならきっと気付かれない。戦っても勝てるだろうが、今は彼を守ることが最優先だ。隣の彼はチャクラを感じたのか、ゆっくりと瞳をひらく。

「鬼鮫」
「分かってます、この距離なら大丈夫…。一応木の上に居ましょうか。」

そう言って彼を抱きかかえ、物音を立てないように静かに木を登る。雨と汗で濡れた彼の頬を、もう一度拭って。



「どうして戦わない、お前なら…」
突然呟いた彼の言葉が重かった。言葉を濁した私の頬に、彼の手が触れる。その手は死人のように冷たくて、握り返すと、彼は少しだけ視線をそらした。

「考えてたんです、今まで私が殺してきた忍のことを。」
「やめろ」
「誰だって死にたくない、でも殺すしか仕方の無い時だってあるんです。私が殺してきた人の一族や友人よりも大切なものがあるんです、でもそれは国の為の情報で、命ではなくて、」
「…やめろ」

制止の言葉なんて聞こえない。きっと彼に聞いて欲しいんじゃない、ただ言葉にしないと壊れてしまいそうで、

「命より大切なものは無いってよく言いますけど、それって嘘ですよねェ、それは個人の話で国家としては何万人の忍の命よりも、国を守る情報の方が必要なんですもんねェ。誰かが殺さないといけないんです、ねえ、それって悪いことなんでしょうか。国を守るためには多少の犠牲が必要なんですよ。でも、ねえ、その一族や友人の事なんて考えてたら、やってられない。残された者は悲しいって言いますけど、生きてるならいいんじゃないんですか、生きてたらいつか幸せになるんでしょう。ねえ、それって贅沢な悩みじゃないですか?私達は、」

一生手が真っ赤に染まったままなのに、と、言おうとした。
ふと視線を下ろすと、彼の頬には水滴がつたっていて、それが雨か汗か涙かは分からなかったけれど、私はやっぱりそれを拭った。気付くと既に雨は止み、空は明るくなっていた。


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