口寂しい時は、飴玉を舐めながら移動した。その行動に彼は苛立っていたらしい。


酸 欠



「なに食べてるんだ」
「飴ですよ」

知ってる、とでも言いたそうな顔。彼はイライラしているのだろうか。
「…ガキだな」

あなたに言われたくない、と心で思う。


「糖は頭に良いんですよ」
「太るぞ」
「この際、これ以上でかくなろうが構わないです」
「いや、俺が困る」

あれ?何の話だっけ、身長の話だったような。
そんな会話をしながら、森を抜けた先には小川があった。ちょっと休みましょうか、と誘ってみる。意外にも、今日はすんなりと受け入れてくれた。





「それ、うまいのか?」

口の中を指して言う。ああ、まだ飴玉の話をしているのか。この人は変な所にこだわるらしい。

「美味しいですよ、食べますか?」
「ああ」

素直じゃないところも可愛いなあ、なんて。


踊る心を隠している、そんな彼の口を塞いだ。驚いたように彼は目を見開く。長い睫毛が当たってこそばゆい。目が合うと、彼は恥ずかしがりながらも私を睨んだ。怖くないですよ、そんな顔。

惜しく思いながらも、一旦彼の口内から離れる。飴の甘さと彼の唾液が混じった口内は、今にもとろけてしまいそうな程。お前の歯は口が切れる、と怒る中で髪を掻き上げると、彼は自然と瞳を閉じた。

「誘ってるんですか?」

笑いながら尋ねると、彼は舌先に飴玉を乗せて、無言でそれを渡す。彼の口内で少し溶けた飴玉は、さっきよりも少しだけ、甘さが増しているような気がした。

「甘い」
「…あなただって」



行き来した飴玉は、すっかり小さくなってしまった。彼の舌裏に飴玉を置くと、そのまま舌で歯先に触れる。呼吸を阻止された彼の身体は、徐々に小さく震え始める。そんな姿が可愛くて、ついつい長く触れてしまう。
やっと離れると、どちらともつかない唾液がこぼれ落ちた。その液を、彼の唇に塗り込んでやる。

「…っ、窒息する」
「この程度では死にませんよ」
「お前と違って、俺はエラ呼吸出来ないんだ」


その言葉に反応したのかどうかは分からない。無意識に彼の手をとると、私は水しぶきをあげて小川へ飛び込んだ。

「なにす…」

言い終わらない内に口を塞ぐ。飴玉の甘味はもうなかったが、彼のほうが何倍も甘いと思った。唇を奪ったまま水中に頭を押さえ込む。舌を何度か這わせたあと、空気をおくると彼はむせ返った。


正直やり過ぎたとは思う。でも、その苦しそうな顔を見ると、いてもたってもいられない。いつもあんなに強気な彼が、今は死にそうになっている。その表情がたまらなくて。

唇から伝わる震えに、どうしてか歓喜した。何度かその行為を繰り返すと、彼はぐったりした表情で私のコートを掴む。水でびしょびしょに濡れた彼は、そのまま川辺に戻ろうとする。
そんな彼の手を掴むと、身体はこちらに倒れかかった。



「…死ぬかと思った」

小刻みに震える彼を、小川に浸かったまま抱き抱えた。ぎゅっと手を握ると、彼は微笑んでくれた。

「酸欠ならいつでも助けます」

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