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  無用の用


「出陣か、わかった」

三日月の合図で俺達は進軍を開始する。
いつものメンツに加えて今日は初めて2軍から合流する御手杵もいる。
本丸では、入れ替わるように出陣していたからあまり接点がなかったが、どこかボヤッっとした奴という印象だった。
俺達1軍と合流したからには練度はそれなりにあるんだろう。少しは骨がある奴だと良いなと淡い期待を抱いていた。
ふと御手杵に視線を向けた。なんて殺気立った目だ。その殺気に鳥肌が立つほどだった。本丸での印象と戦場では正反対とも言えるほど違う。本当は戦いたくて仕方がない奴なんじゃないか?
そう思える程、御手杵の瞳には闘志が宿っていた。そうか、俺とあいつは同じなのか。
思わず声を掛けようと思ったが、あちらから掛けてきた。
どうやら御手杵も俺と同じことを思っていたらしい。
会話はそれなりに盛り上がり、今から戦が始まるとは思えないほど和やかだった。

「…俺達、無用の長物だなぁ」
「あぁ、そうかもな」
「とりあえずお互い頑張ろうな」
「当たり前だ」

ニヤリとこれから起こる戦いを楽しむように御手杵は笑った。俺も思わずつられる。
三日月が索敵の合図を放つ。どうやらまだこちらには気が付いていない。
各々音もなく斬り込む準備を始める。

「やるか」

出陣の掛け声で一気に遡行軍の元へ駆け寄る。
一気に血腥くなる戦場。響く銃声。その音に鼓膜が震える。
全身の血が沸くような高揚感は何時になっても忘れられない。
雄叫びと共に敵を斬り捨てる。この時、戦場に居るこの時が俺にとって一番生きている実感が湧く。

「あいたっ!」

咄嗟に御手杵の声がした方に目を向けた。
どうやら装備していた刀装が剥がれたらしく敵に斬られていた。
脊髄反射のようにその敵へ向かい重い一太刀を浴びせる。
そのまま敵は、壊れた絡繰り人形のように力なく倒れた。

「…大丈夫か?」
「あぁ、たいした怪我じゃない」
「だが刀装が剥がれた以上、撤退指示が出るだろうな」
「やっぱりそうだよなぁ…」
「こればっかりは仕方ねぇよ。それに命令には従わねぇと後々主が怒るからな」
「それだけは勘弁だなぁ…」

御手杵は先ほど笑った時とは違う、どこか緊張が解けたように笑った。
気持ちの切り替えにどうも拍子抜けするが、御手杵とは気が合うと思った。
本丸ではあまり笑わないほうだが、帰るまでお互いにくだらない話で盛り上がり珍しく俺は笑っていた。

***

久しぶりに内番で畑仕事を任された。
今回は三日月と組むよう命じられた。
俺は農具ではないと思いながら、任された仕事を熟す。
文句は少々あるが任されたからには、最後まで仕事をするつもりだ。
ふと三日月に目をやると、どうやら休憩をしたいような素振りを見せた。
致し方なく俺はそれに付き合うことにした。
冷水を飲みながら畑の傍で休んでいると、三日月が思い出したように話しかけてきた。

「同田貫」
「なんだ?」
「無用の用という言葉を知っているか?」
「なんだよ急に。…無用の用?知らないな」
「そうか。誰か忘れてしまったが有名な人が残した言葉だそうだ」
「へぇ。それが俺に関係あるのか?」
「この前の出陣の時、御手杵と話をしている時、自分に出番がないと言っていたか。そのうえ今になって出番があるのは皮肉だと」
「あぁ、言ったな」
「そのさっき話した、無用の用という言葉の意味なんだが…」
「…」
「簡単に言えば、この世に意味のない必要のない物なんて無いということだな」
「必要なんて無い、ねぇ」
「すべての物には意味がある」

三日月はニコッと微笑む。
手ぬぐいで汗を拭き取り続けた。

「少なくともお前達自身は必要ない存在や評価が低いと悩んでいるようだが、俺はそう思わない。お前達の活躍で過去を変えることを防ぐことが出来ている」
「…まぁ、そうだな」
「俺にはその出番が無いと感じていた時代が今になって、戦う為の糧になっているように見える」
「そうかもしれないな。我らが経験した1つの時代が、今の俺の原動力になっている」
「はっはっはっ。俺もまだまだ負けていられないな。今度手合わせでも頼もうか」
「何だったら今でも良いぜ?」
「流石に今は主に怒られるな」
「…あぁ、そうだな」

三日月の言うとおりだ。過去の無用と感じていた時代が今の俺を強くする。
必要とされていなかった時代を取り戻すように戦っている。そんな気分だ。
もっと出陣したい。その為には今、目の前にある仕事を片付けないとな。

「もう休憩は良いだろ?さっさと終わらせよーぜ」
「そうだな。さて、残りの分もやるか」

農具を手に取り土いじりを再開する。
すべての物には意味がある。
そう三日月は言った。
どうして急に三日月がその話をしたのかわからない。
俺と御手杵の話を聞いて思うことがあったのかもしれない。
俺達が話している姿が影を背負っているように見えたのか。
真意はわからない。
それでも、今は俺達が必要とされている時代だ。
戦いが終わるその日まで、俺達は刀を握り続ける。それだけだ。

November 16, 2015
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