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  決意を胸に


「こんなに貰ってもいいんですか!」
「わぁぁ!美味しそう!」
「構わない」

目の前には山姥切さんが少し困ったような顔をしながら大きな菓子折りを持っていた。
話を聞くと主様から実家に帰った時に、「職場の人達と分けなさい」と言うことで持ち帰ったそうです。
近侍の山姥切さんに託してそのままお仕事に就いてしまったらしく、困り果てて僕たちに声をかけてきたとのことでした。

「山姥切さんはお菓子食べないんですか?」
「俺はこれから出陣だ。それに写しの俺なんかがこんなもの食べていいのか…」
「じゃあ、出陣から戻ったら一緒に食べましょうよ!でも、その前に少し食べていても良いですか?」
「…構わないが…」

山姥切さんは少し汚れた布を引っ張りながら了解してくれた。
僕たちはそのことをとても喜んだ。
そして、僕たちは主様から頂いた菓子折りを開けると色とりどりの綺麗な包装されたお菓子がたくさん宝物のように入れられていた。

「このお菓子なんだろう。ぶ、ブラウニー?」
「初めてみるお菓子…ですね。えっと…チョコレートの、ケーキ…みたい…」
「チョコは食べるけど、こんな食べ方もあるんだ!凄いなぁ!」

縁側で2人、秋色に染まる山を眺めながらブラウニーを食べる。
初めて食べたブラウニーに感動のあまり声が出なかった。
隣で食べている弟も同じだった。
顔を見合わせてお互いの口についたブラウニーで更に笑顔になった。

「あははっ、面白いなぁ」
「えへへっ、僕も面白くてお腹がひっくり返るかと思いました」
「でも、こんなに美味しいの食べたの初めてだなぁ。僕も、主君みたいに戦場以外にも出かけたいなぁ」
「…痛いのは、嫌、だもんね…」
「痛いのは確かに嫌いだけど、それよりも、外に出ることの方が楽しいですよ」
「僕も外に出るのは好きだけど…でも、戦いは嫌いだなぁ…」
「じゃあ今度、本丸で一番強い山姥切さんに稽古つけてもらいましょう!」
「えっ?」
「そしたら戦いに行くときだって怖がらないで済むかもしれない」
「…」
「それに今度戦いに出ることになった時の自信になるかもしれないよ」
「…うん、じゃあ、その、その時は一緒に稽古に付き合ってくれますか?」
「そんなの当たり前だよ。だって僕たち兄弟なんだから困ったときはお互い様、ですよ」

とびきりの笑顔を僕に見せた。
それにつられるように僕も笑顔になる。
本当に持つべきものは兄弟、そう思った。
思わず涙がぽろぽろ零れてくる。
心配して手巾を差し伸ばしてくれる弟に更に涙が込み上げる。

「うえぇ…ぐすっ…ありがとう…ございますぅ…」
「わぁっ、そんな泣かないで!僕が泣かしちゃったみたいな気持ちになるよ」
「ちがっうっ、違いますよぉ…」

目の前が涙でぼやぼやした視界の中、弟の手を握る。
弟もギュッっと握り返してくれた。
きっと僕が出陣することは少ないかもしれないけれど、それでも主様の為に、兄弟たちの為にも強くならないと。
涙を拭いて前を向く。そこには口角を上げてはいるけどしっかりとした瞳の弟がいた。

「…戻ったぞ」
「あ、おかえりなさい!」
「おっ、お疲れさまでした」
「山姥切さん、怪我酷いですよ!早く手入れ部屋に入れてもらった方が…」
「こんなの治すうちに入らない」
「で、でも…」
「…わかった、後で手入れしてもらう。ただ、その前に聞いて欲しいことがある」
「なんでしょうか?」
「今度の出陣する戦場のことなんだが、夜戦で俺達1軍が全く歯が立たない。だから作戦変更になった」
「作戦、変更ですか…?」
「短刀のみの部隊で突破してもらうことになった」
「「えっ!?」」

突然の発表であまりにも驚いた。
でも、僕たちまだ全然弱い。
山姥切さん達が手古摺ったって言うのに僕が勝てるのかな。
心配になり思わず俯く。
でも、さっき話したことを忘れたわけじゃない。
今、僕たちが必要とされているんだ。

「…や、山姥切さん…!」
「なんだ?」
「そ、その!ぼ、僕たちに稽古をつけて下さい…!」
「あ!僕もお願いします!」
「…写しの俺なんかで良いのか?」
「良いんです!だって、山姥切さんはこの本丸で一番強いから、僕も新しい戦場でみんなの迷惑にならないように強くなりたい…です!」

言った…!
全部、言いたいこと言えた…!
息が上がって上手く呼吸出来ない。
そろそろっと山姥切さんの表情を伺うけれど、布で隠れて肝心の表情は見えなかった。

「……手入れが終わったら、稽古をつける…俺で、良いのなら…」
「ほ、本当ですか!?や、やったぁあぁ、ありがとうございます!」
「あっ、ありがとうございます!」

あまりの嬉しさに2人で万歳をした。
山姥切さんはそれを見守ってすぐに手入れ部屋に行こうとしていた。
その時、僕は思い出した。そういえば、山姥切さんが帰ったらすることがあったんだ。

「や、山姥切さん…!手入れが終わって稽古つける前に…お、お菓子食べましょうね!」
「…わかった」

山姥切さんはふ、っと笑ったような気がした。
そしてそのまま手入れ部屋向かっていった。
それから数日間に渡る山姥切さんとの訓練の成果を見せる時が来た。
夜の池田屋。風は冷たいけれど、人の熱気を感じる。

「し、死なないように…!」
「さぁ、行きましょう!」

夜の京都街中を僕たちは駆ける。

October 17, 2015
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