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  03 恋の終わり


「今日をもって本丸を解体します。みんな、本当にお疲れさま。私、あなた達に出会えて本当に良かった。ありがとう」

別れの言葉を1人1人づつ告げてゆく。
泣きじゃくる子もいれば、真剣に私の話を聞いてくれる子、湿ったのが嫌なのか笑っていようとする子、それぞれ居た。
御手杵の番だ。
改めて高身長の彼と対面しながら話すのは首が痛い。
でも、もうこの痛みもしなくなる。
そう考えると泣きそうになってきた。
我慢、我慢しないと。

「御手杵、あなたにはいっつも助けてもらっていたわ。戦闘に関しては自信あるみたいだけど、それ以外にも全然自信持っても大丈夫よ。私、あなたと縁側で話すの本当に楽しかったんだから。また、どこかで会いましょう」
「おう、俺もあんたと一緒に過ごせて楽しかったよ」

ふっと気の抜けたように彼は笑った。
それに私は安心した。
ようやくこの門をくぐる覚悟が出来た。
門をくぐれば本丸は解体される。
それでも、それでも私は行かないと。

「みんな、行ってきます」

門をくぐり終え振り返ると今まで存在していたはずの本丸は消えてなくなっていた。
何もなくなったその場所を見てまるで神隠しにでもあっていたような気分になる。
本当はあそこに居たのは夢ではなかったのだろうか。
空しい気持ちが込み上げてくるのを止めるように、こんのすけの声が聞こえた。

「お疲れさまでした。これで主さまの審神者としてのお仕事は終わりになります。本当にお疲れさまでした」

***

本丸を解体してから1週間が経とうとしている。
その間も審神者としての仕事はしていないが、政府に提出する書類の作成に追われていた。
夏はまだ始まったばかりだと怒鳴るように蝉は忙しく鳴いている。
その鳴き声を聞いてくると本丸での記憶が蘇ってくる。
だけど、段々それは時間を置けば鮮明なものじゃなくなってきている。
ふと提出する書類の中から見つけてくれと言わんばかりに主張してくるものがあった。

「…これは…」

御手杵に宛てた最後まで出せなかった手紙だ。
あの夜、自分の思いをただただ思いの丈を書き綴り、冷静になって読み返すとあまりにも文章が酷すぎて、決して彼には見せることは出来ないとお蔵入りにしてしまったものだった。
いいや、むしろその方が良かったんだ。
思いを告げることは出来なかったけど本当に彼に出会えて嬉しかったし楽しかった。
だから良いんだ。

「……随分仕事頑張ってるんだな」
「っ!?」
「そんな驚くなって。別にお化けじゃないんだから」
「お、御手杵っ?!えっ!?どっどうして!?」

彼はいつものように楽しそうに笑っている。
今起きていることが理解できなかった。
だけど確実に目の前に彼は存在している。
いつものように私の後ろに座って仕事を見ていた。
あぁ、私はおかしくなってしまったんだ。

「あんたはおかしくなんかないぞ。まぁこんなこともよくあるって」
「よくあるって…。でも、まぁ元気そうで良かった」
「まぁなー。ところで、それなんだ?」
「え…?あ、これ…?」
「あぁ」

先ほどの手紙を指差していた。
御手杵は不思議そうな顔をしていた。
これもきっと何かの縁なんだ。
渡してしまおう、たとえ彼が幻だとしても。
伝えれなかった想い、伝えてしまおう。

「…これは、手紙だよ。出せなかった手紙」
「出せなかった?」
「うん。でも、もうそんなことないの。ねぇ、御手杵、この手紙受け取って?」
「え…あ…おう…」
「ありがとう」

手紙を渡して心の奥底にあったモヤモヤが吹っ切れた。
彼が手紙を読んでくれるかは定かではない。
でもこの小さい恋心を綴った手紙に乗せた思いを伝えれて良かった。
日頃の疲れなのだろうか目の前が暗くなっていく。
その薄れていく意識の中で、御手杵は最後まで笑っていてくれた。

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