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  02 終わりの始まり


「急な話ではありますが、本丸を解体することになりました」

突然のことに本丸全体は騒めいた。
一瞬の騒めきのあと、審神者の話を聞こうと静まる。

「これも、あなた達の働きが大変優秀だったからです。私と一緒に歴史を守ってくれたこと本当に、本当にありがとう。解体の予定日は、今日から4日後の正午です。ですから、それまでの3日間は好きに過ごして下さい。ひたすら修行に明け暮れても良いし、のんびり本丸で過ごしても構わない。ただし4日後の正午には全員この本丸に居ること。折れて帰って戻って来ないとなったら怖いから戦場には行かないで。戦うならこの本丸内で。以上です。何か質問はある?」

審神者の話を全て聞いたうえで全員納得した。誰も解体に反対する者は居なかった。
それに、遅かれ早かれ薄々こうなることはわかっていた。
3日間の休みをどうするか楽しそうに話す者も居たし、主と離れたくないと目に涙を溜める者も居た。
俺はどうしようか。戦いに明け暮れ自分が鈍っていないことを再確認するのも良いだろう。
近くにいた同田貫に「戦場に行けないなら手合わせしようぜ」と目を光らせる。
断る理由なんてどこにもない。

それから1日中お互いの今まで培った技を見せつけあい、ぶつけ合うように戦っていた。
いつもと変わらないはずの手合わせだった。

「…っ!?」
「甘いぞ御手杵ェーーーーッ!!!」

重く鈍い一撃が受けきれずに腹に入る。
思わず声を漏らしてしてしまうほどのもだった。

「おいおい。どうしたってんだ?いつもだったらこの程度受け流せていただろ?」
「…そうだな。少し気が散ってたのかもな」
「まさか手合わせ中に他のこと考えていたってのか?」
「…なぁ、もうこれくらいにしないか?あと3日もあるんだしさ。それに腹減った…」
「あぁそうだな。まぁ今日はこれくらいにしとくか」
「今日の晩飯なんだろうなぁ」
「確か今日の当番は、愛染と堀川と長谷部と江雪、あと石切丸じゃなかったか?」
「…なんか凄いメンツだなぁ…俺達の分置いてくれてるか心配だなぁ…」
「取り置きしてなかったら、余ってる米で握り飯作るしかねぇな」
「うぇ〜」

心配をよそに、台所には俺達の取り置きがちゃんと用意されていた。
それに安心し同田貫は先に風呂に行くと言って台所から出てゆく。
俺はそのまま食事にありついた。
どうやら宴会をやっているようで、がやがやと騒ぐ声がする。
少し静かに食べたいと思って縁側に食事を持って出た。

「あ〜いたいた!」
「ん?あぁ、鯰尾か。どうしたんだ?」
「しばらく一緒に出陣するのが減って話すのが少なくなったので、せっかくだから話しようと思って。…いや、でも食事中ならいいです」
「そんな気にしなくても良いぞ?確かにここ最近の鯰尾は、京都に行ってばっかりだったからなぁ。で、俺に話ってなんだ?」
「最近、変だなって思って」
「変?」
「ん…?もしかして俺の勘違いなのかな…」
「そうかぁ?俺はいつもと変わらないだろ?」
「なんか最近ボヤッってしてるように見えるんですけど気のせいですか?」
「それは元からじゃないか?俺は刺すことしか出来ないからなぁ」
「…本当に自覚ないんですか?」
「え?あ?俺は武器としては自覚あるつもりだけどな」
「うーん、そういう自覚じゃなくて…」

隣に座った鯰尾はもどかしそうに頭を掻く。
手入れされた黒髪がゆらゆらと揺れて綺麗だった。
そういえば主の髪の毛も綺麗だったなぁ。

「恋、してるんじゃないですか?」
「……はぁ…?」
「主に恋してるんじゃないんですか?」
「いやいや、そんなことあるわけないだろ。俺達は人間じゃないんだから」
「じゃあ、それ主に面と向かって言えますか?」
「……そりゃあ、言えるに、決まってるだろ…」
「…そうですか。なんか俺ちょっと勘違いしてみたいです。ごめんなさい。とりあえず明日、朝から陸奥守さん達と買い物行こうと思ってるのでもう寝ますね。おやすみなさい!」
「おう、おやすみ」

ひらひらと手を振りながら鯰尾の背中を見送って、また空を見上げる。
ごめんな。鯰尾、嘘ついて。
自覚していないなんて嘘だ。確かにここ最近の俺は確かに変だった。
胸の奥がモヤモヤしていてそれを忘れることが出来たのは戦場だけだった。
だけど、その戦場へ赴いても晴れることはない。
今日の同田貫との手合わせだって身が入ってなかった。
俺らしくないことなんてわかっている。
どうにかなってしまったんだろう、あの日から。
ふと見上げた月は綺麗だった。

「月が綺麗だなぁ」
「ふふっ」
「!?」
「ちょっと、そんなに驚かなくても良いんじゃない?」
「もう寝たと思ってた」
「まだまだ夜はこれからなのに寝るわけないよ。みんなお酒とか飲んで楽しそうにやってるよ?御手杵も一緒に行こうよ」
「いや、俺は行かなくて良い。これから風呂行こうと思ってたし」
「…そっか。ねぇ、隣座っても良い?」
「あぁ」

隣に座った主はどことなく楽しそうだった。
俺達の前で本丸の解体宣言をしたようには全く見えないほどに。
そしてどことなく酒臭い気がする。

「本当、最近どうしちゃったの?でも、思ったより元気そうで良かった」
「……」
「ねぇ、御手杵」
「なんだ?」
「…その、私さ…」
「……」
「…………」
「……どうかしーーって、寝てるのか?」

人の気も知らないで肩にもたれ掛るように眠ってしまった。
仕方がない、とりあえず部屋まで運ぶしかない。
見た目よりなんて軽い身体だ。
こんな身体でよく本丸の連中を仕切っていたな。
関心しつつ彼女を部屋に運び布団を出し寝かしつけた。

「……て…」
「ん?」
「お、てき…ね?」
「あぁ、どうかしたか?」
「……あり、がと…」

そのまま何事もなく寝入ってしまった。
頭をガシガシと掻き、毛布を掛けて部屋を出る。
もうこんな思いはこりごりだ。
茹だるような暑さは俺を寝かしつけてくれない。
今日は一晩中起きていようか1人悩んでいた。

***

目が覚めた時は深夜3時だった。
宴会をしている最中に御手杵を見つけて絡んでそれからの記憶がない。
酔い潰れるなんて、いい年して全く恥ずかしい話だ。
でも一体誰が部屋まで運んでくれたのだろうか。
可能性が一番高いのは最後に話した御手杵だろう。
考えるだけでも恥ずかしい。

「全く自分は何をしてるんだ…」

恥ずかしさのあまりに蹲ってしまう。
例え運んでくれたのが御手杵でなくても、こんな醜態晒すの恥ずかしくて仕方がなかった。
大きく深呼吸をして冷静になる。
ふと机の上に書きかけの両親に宛てた手紙を見つけた。
「もうこの手紙は必要なんかないか」そう思いながら手紙の文字をなぞる。
思ったより早かった本丸解体。歴史修正主義者は多くなかったのか。
色々な思いが溢れて破裂しそうになる。
嫌だ。解体なんかしたくない。もっと、もっと、みんなと…
御手杵と―――

「…ダメ、自分が歴史修正主義者みたいなこと考えてるじゃないの…」

落ち着けとばかりに両頬を強く叩く。
もう決まったことは変更なんか出来ない。
でも、今の自分にしか出来ないことだってあるはずだ。
そう筆を取った。

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