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  ミカサの場合


まだ胸のどきどきが止まらない。
エレンに抱きしめられた。そのことだけでもう頭がいっぱいだった。
今もエレンの声が耳元から離れない。体がぞわぞわして仕方がない。
一人食堂の窓から空を眺める。だが、綺麗な星空を眺めて思った。
ふと「私の存在意義がなくなるのではないのか」そう思った。
あの時私は、エレンに守られることを受け止めた。だけど私は今までエレンを守るために生きていたのだ。
それを今度は守られるために生きなければならない。
はっきり言おう。私は守られ方がわからなかった。
そんな時だ。奴が来たのは。
ガタッと物音をたて無愛想な表情でこちらを見る。何か言っているが適当に返す。
あなたに構っているほど、私は暇でない。

「おい、ちょっとそこ座れ」
「説教なら…間に合ってますが?」
「…説教じゃない。お前と話がしたいだけだ」

この人は本当に何を考えているのかわからない。正面を避け斜め向かいに座る。
ふと彼の怪我のことを思い出した。
私が彼を戦線離脱させてしまった事実は変わらない。

「…足の具合はどうですか?」
「そこそこ」

そっけない。
せっかく気遣って声をかけたのに。厭味ったらしく続けた。

「…で、本題はなんですか?巨人の効率のいい削ぎ方とかですか?」
「違う。ミカサ、なにかエレンとあったのか?」

やっぱり嫌いだ。コイツ。私の弱みを握って何をしたい?

「…あったとしても、それは、言えない。絶対に」
「そうか」

なら聞かないで欲しい。そう思った。あと少しで口に出してしまうところだった。
でも、この人なら何も言わず聞き流してくれるかもしれない。
私はこの人には感情が無いと思ったからだ。

「だが…もしも、だ…」

私は、独り言のように呟いた。
喉のずっと奥が焼けるように熱くなる。

「…もしだ、私の言動がすべて否定されたら…私は、もう戦う意味を、生きる意味を無くしてしまう」

エレンからもらった宝物を撫でる。
それは触っていて、とても落ち着く。とても。

「…その時は俺がすべて肯定しよう。世界がお前を否定してもお前を守ろう」

耳を疑った。私の呟きなんて聞き流していると思った。
むしろ聞いてすらいないと思っていた。
彼の考えていることが理解できなかった。

「…それを本気で言っているなら、気持ち悪い」
「そうか、クソガキ」

彼は鼻で笑った。なにか私のなかで違和感が生じた。
それは私が感じていた彼と、実際の彼との印象だ。
その小柄な男は食堂を出ようとした。

「…兵長!」

止まりはするが振り向こうとはしない。

「その…私は、あなたという人を誤解していたのかもしれない…」
「…は?」

声が食堂に響く。ただそれだけだった。

「…私が子供だったのは認めよう。だが、エレンにしたことへの報いは別だ」
「言いたいことはそれだけか?」

返事はしなかった。する気も起きなかった。ただ去っていく背中を見つめる。

「…ありがとうございます…」

エレンを救ってくれて。私を救ってくれて。だから埋めよう。あなたが抜けたその穴を。
だから必ずまたあの戦場に戻ってきてください。
そんなこと本人の前では言うつもりはない。言いたくもない。
大嫌いだが嫌いではなかった。その矛盾が私は嫌いだ。
この思いをどこにぶつければ楽になるのだろうか。


朝、食堂に向かう際エレンと廊下で出くわす。
朝から私はついている。
昨夜悩んでいたことが嘘のようだ。
「おはよう」と他愛のない会話が出来るだけでも私は幸せだ。
だから私は考えないことにした。
昨夜のエレンの言葉はとても嬉しかった。
いつか死ぬまでには言ってもらいたいと思っていた言葉の一つでもあったから。
でも、今の私にはその言葉が見合っていないと思った。
だからその言葉に見合うような人になりたいと思った。なろうと思った。
時間はかかるかもしれないけれど。
食堂の窓から漏れる朝日は、結局一睡も出来なかった私に容赦なく照りつける。
「戦え」「抗え」と。

June 14, 2013
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