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  リヴァイの場合


寝苦しくて仕方ない。
別に暑いからというわけではない。
昔からよくあることだった。仲間を失うたび訪れる独特の息苦しさだった。
いい歳した大人がこんなので示しがつかないなとつくづく思った。
気分転換のため仕方なく水を飲みに食堂へ向かう。
広いとも言えない食堂に亡霊のように窓から星空を眺める者が一人。

「おい、なにをしている」
「…チ、あ、いや兵長」
「お前わざとだろ?え?違うのか?」

あいつは俺のことを無視だ。俺も無視した。そしていつも使っているコップに水をくむ。
水を飲みながらその少女を眺める。なにを考えてそんな顔をする。まぁ、どうせエレンのことだろう。

「おい、ちょっとそこ座れ」
「説教なら…間に合ってますが?」
「…説教じゃない。お前と話がしたいだけだ」

腹の中をすこし探ってやろう。もしかしたらコイツは俺と同じなのかもしれない。
しぶしぶ彼女は座る。さすがに正面は避けたか。

「…足の具合はどうですか?」
「そこそこ」

コイツは俺の足のことを気にしていたのか。それだけでもう会話は十分だった。満足した。

「…で、本題はなんですか?巨人の効率のいい削ぎ方とかですか?」
「違う。ミカサ、なにかエレンとあったのか?」

少女は体をビクつかせる。ドンピシャじゃねぇか。
本当に単純だな。そう思いながら彼女を見つめる。

「…あったとしても、それは言えない。言うつもりもない」
「そうか」

思った通りの返しだった。ここまで思った通りだとすがすがしいくらいだ。

「だが…もしも、だ…」

彼女が口を開く。その目はかすかに潤んでいた。もうコイツは限界なんだなと悟った。

「…もしだ、私の言動がすべて否定されたら…私は、もう戦う意味を、生きる意味を無くしてしまう」

マフラーを大事そうに撫でる。まるで自分の子供のように。
そんなにエレンが大事か。

「…その時は俺がすべて肯定しよう。世界がお前を否定してもお前を守ろう」

彼女はゆっくり俺に視線を合わせる。ゆっくり口を開く。

「…それを本気で言っているなら、気持ち悪い」
「そうか、クソガキ」

コップの残りの水を飲み干す。席を立ち、コップを洗い戻す。
何を俺はこのガキに期待していた。いや、そもそも期待すらしちゃいなかった。
俺とコイツは犬猿の仲が一番お互いに丁度良い距離だ。

「…兵長!」

背中の方から声がした。だが、振り向こうとはしなかった。
振り向いてしまえば何か壊れると思った。

「その…私は、あなたという人を誤解していたのかもしれない…」
「…は?」

お互いの表情はわからない。ただ声だけが響く。

「…私が子供だったのは認めよう。だが、エレンにしたことへの報いは別だ」
「言いたいことはそれだけか?」

返事が無かったのでそのまま食堂をあとにしようとした。

「…ありがとうございます…」

そう聞こえた気がしたが振り返らず、足も止めずにその場を後にした。


再びベッドに戻った。
気分転換のためだったのに気分は優れなかった。むしろ悪化した。
白い天井を見ながら思う。前にもこんなのあったなと。
本当に情けない。この感情に俺は目を背けていた。気付きたくも、知りたくもなかった。
俺のアイツに対する気にかけが違う何かに変わっていたのには違いなかった。
「気持ち悪い…ねぇ」建前のつもりで彼女へ吐いた言葉は、実際は半分本音だったのかもしれない。
あんな小娘に踊らされるのは癪だが、もう少し踊らされてやろう。
バカみてぇに踊ってれば疲れ果てた頃には、その感情への本当の答えが出るだろう。
そう思いながら眠りについた。

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