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  ヒナギク


久しぶりのアルバイトだった。
あの日から3日ほどバイトは入っていなかった。
決して宜野座さんと気まずかったわけじゃない。
ただ後悔していた。
だけどもっと早めに謝らばよかったのかもしれない。
次の日の開店前にでも。
だから今日、閉店後謝ろうと決めた。

私は仕事中ビクビクしていた。
でも、宜野座さんは違った。
いつもどおり。
その一言に尽きる。
花の手入れをし、花束やアレンジメントを作り、入荷したい花を探したり、今日の売上を上げたり。
あの日のことなんて何もなかったかのように。
それはそれで大人な対応なのかもしれない。
私情を仕事に持ち込まない。
宜野座さんらしいと言えばらしい。
でも、少し悲しかった。


狡噛に言われた通り俺は彼女に自分の思いを伝えることにした。
大の大人がたった一人の女の子に思いを伝えることにビクビクしている。
だが仕事は仕事だ。
と弁えていたがいざ彼女の顔を見ると動揺を隠せなかった。
彼女はいつも通りに仕事をこなす。
それに俺はどうだ?
花の手入れも、花束、アレンジもおぼつかない。
売上集計に至ってはまともに電卓を打てやしない。
俺の姿は今、彼女にどう映っているんだ?

もう閉店の時間は過ぎた。
彼女は帰る支度を始めていた。
「その日告白しろ。絶対だ。たとえバイトに来なくても、だ」
そう狡噛の言った言葉を思い出した。
それが今だ。
彼女はこのまま帰ってしまうだろう。
どうにかして伝えなければ…。


「常守!」「宜野座さん!」
「え…」
「あ…」

お互いの声が店内に響いた。
何が起きたのかわからなかった。
でもお互いに驚いている。
そんな二人の様子をダイムは不思議そうに眺めている。

「…なんだ常守。用があるならそちらからに先にしてくれないか。俺は話が長くなる」
「は、はい!」

彼女は俺の目を見ながら話す。
俺は一瞬逸らした。
だが戻した。
彼女の話をちゃんと聞くため。

「その、この前は失礼なことをして申し訳ありませんでした!私、自分勝手な思い込みで、ただ感情が高揚してしまって、本当に、本当に申し訳ありませんでした!」
「…お、おい」

彼女は深々と頭を下げた。
「もういいぞ」と言っても頭を上げようとはしなかった。
彼女は優しい女の子だ。
悪いのは俺の方なのに。
謝るべきなのは俺なのに彼女はなぜ謝る?

「…もう、いいんだ常守。頭を上げてくれ。俺の話が出来ない…」
「は、はい!」

彼女は素直に顔をあげた。
上げた後、一瞬こわばった表情をしたが、すぐにほぐれた。


顔を上げた後、宜野座さんは笑っていた。
その笑顔を見て少し安心してしまった。

「…俺は、あなたに酷いことを言った。自分の思ったことをただ口走った。あなたの気持ちを考えなかった。いや、考えるのが怖かったのかもしれない。だが俺は言った後に後悔した」
「?」
「そのだな、俺は、俺は―――」

宜野座さんの目が眼鏡越しに震えている。
いつのも宜野座さんじゃない。
私はそんなに宜野座さんを不快にさせることをしてしまったのかしら…。

「この花を受け取ってくれ…。その言葉で俺は伝えるのは下手くそでね。だからこの花を贈らせてくれ」
「あ、この花って…」

かわいらしいピンク色の花。
名前が思い出せない。
ひ、ひ、ひ…。

「ヒナギクだ」
「あ、そうだ!ヒナギクですよね!とっても可愛いです!」
「で、だな。この花の花言葉が―――」


時間が止まった。
今のは夢?
そんな気分だ。

「え、今、なんて?」
「結構大きな声で言ったつもりなんだがな?」
「き、聞こえてましたよ!でも、それってどういう意味ですか?」
「そのままだが」
「…本当に、宜野座さん不器用すぎます…」
「なっ!?」

ヒナギクをギュッと握る。
ピンク色の花びらが、宜野座さんの顔色に似ている。
さっき宜野座さんの言ったことが本当ならば、私は―――。

「―――私、宜野座さんが好きです。やっと、伝えられました」
「…なぜ君が先に言うんだ…」
「え、あ、その、宜野座さんもそう思っていたって思うとなんだか安心してしまって」
「はぁ…」

すこし宜野座さんはため息をついた。
そのあと少し笑った。
その表情は初めてみる表情だった。

「常守。俺は要領が悪いし恋愛の経験も少ない。それでも俺は常守を思う気持ちは誰にも負けるつもりはない。この世の誰よりも幸せにしたい。だから、俺と付き合ってくれないか?」
「…はい!」

きっと私はいままで誰にも見せなかった飛び切りの笑顔だった。
宜野座さんもとびきりの笑顔だった。
そのあとに彼は私の手を握った。
私も握り返した。

「…常守。これからもよろしくな!」
「はい。宜野座さん!」

言葉ではうまく伝えれない。
でも、私はとてもこの世界の誰よりも今は幸せです。


ヒナギクの花言葉
"あなたと同じ気持ちです"

From April 20, 2013 to April 20, 2013.
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