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  リヴァイの場合


奴の様子を見に行ったのは単なる気まぐれだった。
風邪を引いたことはハンジから聞いていて知っていたがここまで酷いとは思っていなかった。
やはりいくら気張っていても子供は子供だ。
顔を真っ赤にしてうなだれる。誰も看病しないのか。エレンでさえも。
なぜか少し同情してしまった。
だが、それが自身の敗因だ。
体温計を探すために薄暗い部屋を見渡す。無い。「チッ」と舌打ちしながらデコに手を乗せる。クソ熱い。ガキの体温だなと心底思った。これはしばらく治らんな。

「…いい」

「…あ゛?」そいつの声に思わず声が出る。それと同時に思わず手を引こうとした、が、なぜかそれを出来なかった。次に出てくる奴の言葉を聞いて。

「…気持ちいい…。ありがとう…」

普段絶対俺に言わない言葉だ。どうせ俺をエレンかなんかと勘違いでもしているのだろう。

「…エレン、私、エレンと一緒にいれて嬉しい…。でもね…」

やっぱりそうじゃねぇか。コイツの考えていることはエレンしかねぇのか。なにをそこまで執着させる?
奴らの過去には興味はねぇが、ここまで来ると異常だ。

「最近おかしい…。あの、チ、いや、兵長のことで…」

…チビだと?
コイツ、風邪が治ったらしばこう。

「どうして、私を助けたのだろうか…って。新兵なんて大勢戦場で死んでいくのに。エレンの班員だってみんな死んだのに。なぜ、私をかばったのだろうか…って」

耳を疑った。今、なんて言った?そんなことを思っていたのか?エレンにしか興味がないと思っていたから余計に驚いた。そして、弱弱しい声で続ける。

「兵長の怪我は人類の希望の…光を消す…それは、あの人自身も分かっているはずであろうこと…なのに…。エレン、私は…あの人の…あの…ひょう…じょが…わす…」

血が凍った。全身の血が凍って、今起きていることを、考えることを放棄した。
慣れないことは、特に看病なんてするもんじゃねぇ。俺だってわかってる。こんな結果になったのは俺の自業自得だ。
人類の希望だって?そんなの戦わない奴らが勝手に言いだしたことだ。
俺には関係ない。
…だが、あの時なぜおまえを救った?今考えると俺の行動が理解できなかった。
ただ仲間が死ぬのはもう見たくなかったからか?
ミカサ、お前の姿が“誰か”と被ったからか?
それとも―――?
ふとミカサの顔を見ると泣いていた。「泣くんじゃねぇよ、このガキが」聞こえるように言ってやろうと思ったが、それはしなかった。仕方なく自分にだけ聞こえるように呟いた。
額から手をとり、熱くなった手のひらから全身が熱くなっていく。クソが。一旦部屋に戻るか。
そして部屋を後にする。が。ここにもクソガキが一匹。

「…なんだ居たのか、エレン」
「えぇ。兵長がミカサの様子を見に来るなんて珍しいですね」
「体調を崩している兵士を気にかけて悪いか」

エレンの目がいつもよりギラギラしている。
こいつは俺がミカサに何かしたとでも思ってるのか?それは心外だ。何かされたのは俺のほうだ。
ガキの寝言に付き合わされるなんて思っちゃいなかった。
ふと、エレンの足元に目がいく。握ったタオルから水がぼたぼた零れる。
その水はまるでエレンの涙のようだった。俺が何したってんだ。
「小便漏らすんじゃねぇよ、汚ぇなクソガキ」そう吐いて立ち去った。
今のアイツは狂気に満ちている。下手すりゃ殺される。これだからガキは嫌いだ。

部屋に戻ってソファに横になる。
まだあの言葉が離れない。
俺の表情が忘れられないだって?なにかの冗談じゃないのか?そもそも俺がどんな表情をしていたんだ。
それすらわからない。
行かなければ良かった。
本当に後悔した。
気まぐれで朦朧とした人間を看病するもんじゃねぇ。
ミカサの額に触れていて方の腕を天井に伸ばす。まだ手のひらが熱い。奴の熱が離れない。
何が起きているか理解に苦しむ。「…俺は壊れてんのか?」真っ白い天井に

June 10, 2013
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