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  03 青き炎を纏いし者


「今日はいつもと何か違う」
そう誰かが呟いた。
何度も訪れ見慣れた合戦場のはずだった。
だが今日はそこには確かに違和感があった。
早く遡行軍を倒してしまおう。そう思った時だ。
時空の歪みから僕達でもなく遡行軍でもない者が現れる。
まるで青い炎を身に纏ったように輝く槍。圧倒的な威圧感。
何者かはわからなかったが、確実に僕達を殺しにかかっている。
負けるわけにはいかない。
だが、今回ばかりは実力差が大きかったようだ。

「まったく、こんなに雅さの欠片もない敵が多いのは困ったものだね…」
「…チッ」

互いに刀装は削り合い多少ではあるが負傷している者もいた。
認めたくはないが押されている。いつになく刀を握る手に力が入る。
改めればこの時の僕は冷静ではなかった。
それ故に正常な判断が出来ていなかった。

「歌仙さんっ!」

五虎退の裂けたような声が響き渡る。
声に気が付いた時には身体を斬り付けられていた。
傷口から温い血が流れるのが実感する。
衝動的に言葉を発していた。

「貴様ァ…!万死に値するぞ……!」

目の前の敵を両断する。
無様に散ってゆく敵を見て多少昂っている自身がいる。
だが、その奥にもう一体敵が居たことに気付いた。
気が付いた時には受け身を取る暇がない程、素早く大太刀が振り下ろされていた。
あぁ、間に合わない。

「邪魔だ、避けろ」
「な…!」

目の前には黒い服と朱色の腰布を纏った男が立っていた。
男は平然とかつ確実に敵の大太刀を仕留めた。
その光景に我に返った。
「あぁ、僕はなにをしているんだ」
再び血で汚れてしまった刀を握る。
こんなところで死ぬわけにはいかない。

***

敵の多さ、強さに押されていた。
そのことに敵を煽る者、慄く者、高揚する者、必死に足掻く者、そして冷静になれていない者。

「まさか、こんな所で貸しを作ってしまうなんてね…」
「話す余力があるなら、目の前の敵を倒すのが先じゃないのか」
「はは…。それもそうかもしれない」

歌仙は真っ直ぐと敵に狙いを定め斬り込む。
先程まで頭に血が昇り暴走していたとは思えないほど別人だ。
それにしても、本当にしぶとい奴らだ。敵ながら関心する。
だが、あいつらにむざむざと殺されるために来たわけではない。

「死ね」

浴びせた一太刀で敵は散ってゆく。
命のやり取りをしている極限状態で、理性を忘れ本能で戦えば終わりだ。
一瞬の決断、油断、驚きが自分を不利にする。だが、それ以外にも不利になる要素はある。
相手に少しでも弱みを見せれば無慈悲な一撃を食らい死ぬ。
だが今の俺は呼吸が乱れ肩で息をする状態で、あからさまに“弱み”を見せているようなものだ。
油断したわけではなかった。ただ相手が一枚上手で俺が弱かっただけだった。
一瞬の隙を突く凄まじい電光のような斬撃。
胸元を斬られるが、深手を負う間一髪でかわす。
その時目の前にひらひらと何か舞った。
無意識のうちにそれに手を伸ばしていた。

「…ッ!」

生暖かいものが流れているのを感じる。溢れ出て止まらない。
同時に視界がぼやけ、目の前が真っ白になってゆく。
身体から力が抜け立てず倒れてゆく。倒れまいと脚に力を入れるが入らない。
同時に所謂走馬灯のようなものが見えた。
今思えば呼び起され、とんでもない目にあった。
毎日朝から晩まで合戦場へ出撃。
暇があれば畑当番や馬当番もしていた。
特に審神者には困ったものだ。
出陣するたびに飽きもしないで声をかけ、隠していた異常にもすぐ気付く。
そして誰よりも悩み、笑っていた。
だが、俺は―――

「…一人で戦い…一人で死ぬ……俺はそれで―――」
「よくない」
「…ッ」

倒れゆく身体を歌仙に支えられていた。
一体何が起きているのか理解出来なかったが見渡すと敵の亡骸が横たわっていた。

「君がどうして一人で戦いたいかなんて僕には、どうでもいい」
「…」
「ただ、君には生きて帰って主に伝えることがあると思わないのかい?」
「……そんなことは…」
「じゃあ、その大事そうに握っている物はなんだい?」
「…」
「大倶利伽羅、僕が何も知らないとでも思っているのかい?」

歌仙の目と髪が夕焼けと血で赤く染まって見える。
その目は怒りと狂気に満ちていた。
今にも斬り付けられそうなその視線に、目を背けた。
お前らはいつも俺を構うんだ。どうしてなんだ。
左手に握り締めた紙がくしゃっと音を立てた。

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