Novel | ナノ


  02 突き刺さる言葉


出陣先から帰って来る頃には本丸は橙色に染まっていた。
今日も大きな怪我もなく無事に彼らは帰って来ることが出来たことに安心する。
いつものように頑張ってくれた彼らに労いの言葉をかける。
やはり最後に声をかけるのは大倶利伽羅だった。

「お疲れ様。これから夕飯の用意するから待っててね」
「…今、腹は空いていない」
「とりあえず出来たら呼ぶからね」

「勝手にしろ」と言わんばかりの態度でどこかに行ってしまった。
出陣後の報告もまだ聞いていない。だが、これから自分と歌仙で食事を作らなければならない。
報告なんかよりも食事だ。
時々自分が審神者としてそっちを優先してしまうのはどうかと思うが、空腹というのは死活問題だ。
腹が減っては戦は出来ぬ、だ。

結局夕飯が終わる頃になっても結局大倶利伽羅はやってこなかった。
「出来たら呼ぶ」と言ったもののどこに居るのか見当がつかず一通り彼が行きそうな場所は探したがすべてハズレ。
もしかしたら、立ち去ってしまったのではないかと良からぬことが頭に過る。でも、彼はそんなことするような人でないとどこかで信じていた。
その時、離れから何か打ち付けるような音が響いてきた。
だがよく見ると離れには灯りがついていない。なんだろうと疑問に思いながら離れに入った。
そっと扉を開けると、さらに音は大きくなり板の間を抜けるとさらに音は近づき、発信源は間近だ。
気が付くと手合せで使用している部屋の前に立っていた。そっと扉を開けると大倶利伽羅が居た。
声をかける為に扉を更に開けようと手を掛けた時、全身が凍り付いたように動かなくなった。
物言わぬ手合せの人形にぶつける彼の見たことのない殺気を出す姿に、引きつけられる。

「死ね」

物騒な言葉を静か口調ではあるが言い放つ。
その言葉は自分に向けられた物ではないのはわかっているが、鈍く光る金色の瞳に息の根を止められたような感覚に陥る。
今自分が何をすべきか頭で考えるより身体が勝手に動いていた。

***

出陣から帰って来てから真っ先に離れに向かった。
審神者に見つからないようにしていたが見つかっていた。
それなりに返事をして後にする。

太刀は夜戦が得意ではない。
どうやら審神者はそのことを知らないらしい。
だが、そんなこと知られてまた変に行動されても困る。
ひたすら灯りのない離れで人形に今の実力をぶつけた。
それに昨日の怪我は自分で治すつもりだった。
あれくらいの傷大したものではない。
俺は一人でなんだってする。
誰の手も借りなどしない。
自分一人で強くなる。
もう誰とも慣れ合うつもりなんてない。

髪の毛が額に張り付き気持ちが悪いことに実感した時には、相当な時間が経っていた。
こんな時間だ。ほとんどの奴ら寝ているだろう。風呂にいる奴なんていないはずだ。
早く済ませて寝てしまおうと思い離れから出ようとした瞬間、匂いがした。
土間の下駄箱の上に歪な形をしてはいるがおにぎりがあった。
「なぜこんなところに」と疑問を持ったが、誰が書いたかすぐ分かる字で俺宛の紙切れを見た時疑問は晴れた。
だがそれと同時に別の感情が込み上げた。
その片付けをするため台所に向かうとそこから聞きなれた声がした。

「…君も本当に物好きだよ」
「そんなことないとは思うんだけどなぁ」
「まぁ、それに付き合う僕も同じかな」
「だけど歌仙の場合は、同じ物好きでも数奇者だと思うよ」
「お褒めに与り光栄だよ」

審神者と歌仙の声が寝静まった本丸に響く。
今は声をかけられたくなかった。
気づかれないように皿を近くの棚に置こうとした時だ。

「…大倶利伽羅にはいつも無理させてると思うよ」

その言葉で全身の動きが凍ったように停止する。
汗一つ床に垂らせば気付かれてしまう気がした。
思わず息を呑む。

「彼は誰かを頼ることなんてしない。いつも声かけて嫌がっているのもわかっている。彼の言う通りにすれば良いのかもしれないって何回も思ったよ」
「…確かにそうかもしれないね」
「だけど先輩の審神者に聞いて太刀って夜戦が苦手だったのも今日初めて知った。本当に審神者として、こんなこと知らないのなんて恥ずかしいよね」
「…」
「大倶利伽羅はさ…」
「…」
「ぶっきらぼうな所はあるけれど、本当は優しい子だよ。確かに言葉は少し冷たい所はあるけれど、本当に誰かを否定するようなことは言わないし、なんだかんだ言いながらも、ちゃんと内番もしているし」
「…」
「それに自分の弱い所を克服しようと努力したりするし。でも、それは慣れ合いたくないからしている行動だっていうのもわかってる」
「…」
「ただ、やっぱり審神者としてはちょっと頼って欲しいかなって思うけどね」
「…どうしてだい?」
「彼とはまだ一緒に戦いたい。大切な仲間だからさ。失いたくなんかないよ」

審神者の顔はもちろん見えてなんかいない。
だが、今のあいつの表情はきっと晴れ晴れした表情をしているんだろう。
顔を見なくても想像出来たことに複雑な気分になる。
止まっていた皿を置く手を再び動かす。

「きっとその想い、大倶利伽羅にも届くはずだよ」

歌仙の言葉が、俺の背中に突き刺さる。

***

「さぁ、今日も出陣しようか」

今日の天候は雲一つない真っ新な空。青天だ。
まるで自分の決意を祝うような恵まれた天候。
各々準備は万端のようで、今か今かと出陣を待つ。
そんな中、大倶利伽羅が珍しく自分から歩み寄った。

「…」
「どうかしたの?」
「…」

ひたすらお互いに沈黙していた。
どうして彼が来たのかはわからないが、自ら歩み寄って来たことに内心感動していた。
なにがどうしてこうなったのかは当人にしかわからない事情ではあるが。
だが、のんびりこの沈黙に浸っている場合ではない。
痺れを切らして口を開く。

「大倶利伽羅」
「…なんだ」
「すぐ終わるからちゃんと聞いていて」
「…」
「もう無茶しないでとも、怪我しないでとも言わない」
「何が言いたいんだ?」
「帰ってきなさい、必ず」
「……どこで死ぬかは俺が決めることだ。あんたの命令には及ばない」

そのまま大倶利伽羅は距離を置き離れたが、自分の目の届く範囲で座り込んだ。
時は来た。いつものように出陣をする。
多くの希望と祈りを込めて。

prev / bookmark / next

[ back to Contents ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -