Novel | ナノ


  01 出会い


「…大倶利伽羅だ」

生まれて初めて自分の力で太刀の鍛刀に成功した。
あまりの嬉しさに取り乱しそうになったが「落ち着け」と心で呟く。
初めて出会う彼へ笑顔で挨拶をする。

「初めまして。自分はあなたを鍛刀した審神者です。よろしく、大倶利伽羅」
「……別に語ることは無い。慣れ合う気はないからな」

そうして彼は鍛錬所から出て行ってしまった。
あまりに唐突な言葉と言動に呆気に取られ何も出来なかったが、近侍の歌仙に促されて追いかけたが彼は何事も無かったように縁側に腰掛けていた。
どこかに行ってしまうのではないかと一瞬不安にもなったが、どこか一点を真っ直ぐ見つめている彼が何も言わないで立ち去ることはないだろうと感じその場を後にした。
刀剣の少ない本丸でも個性的な面々が揃っているとは思ったが、彼はこの本丸で上位に食い込むほど個性的な印象を受けた。
でも、なんだかんだ仲良くやっていけるだろう。
それが彼の第一印象だった。

***

歴史修正主義者との戦いは日夜続いた。
1つ倒せばまた1つ。とめどなく湧きつづける泉のように奴らは修正をし続ける。
いたちごっこではあるが刀剣男士達のお陰で、それなりにではあるが審神者としての仕事はこなせてはいる。
多くの問題を抱えてはいるが、今、自分自身の中で抱える一番の問題はある刀剣男士についてだった。

「みんな、今日もお疲れ様でした」
「お疲れ様。これ出陣先で拾ったものなんだ。風流だろう?」
「ありがとう歌仙。資材の足しになるよ」
「あ、主様。僕も拾いました」
「五虎退もありがとう」

当たり前のことではあるが、出陣先からみんなと一緒に無事に帰って来ることに安心する。
本丸に帰ってきた頃にはもう夜遅くなっていたので、今日の報告は明日の朝で良いと告げ一人一人に「お疲れ様」や「おやすみ」と声をかけそれぞれの部屋へ戻って行った。
最後に大倶利伽羅が来たので声をかけようと歩み寄る。

「お疲れ様。明日も大変かもしれないけれど、ゆっくり休んでね」
「…俺に用はないだろう」
「お、おやすみ」

そうして自分の部屋に戻って行った。
大倶利伽羅を鍛刀してから随分と経っているが未だに距離の置き方が分からなかった。
神様である彼が望むように慣れ合わないのが良いのかもしれない。
だが、審神者としてそれはどうなのだろうかと思うところもあった。
何も言わない背中を見送っていると、ぽつぽつと赤黒い染みが彼の通り道のように形を成していた。
目の前の光景に血の気が引く。

「大倶利伽羅!待って!」
「……」
「あなた怪我しているの?ちょっと見せて」
「休むほどでもない。放っておいてくれ」
「じゃあこの床の染みは何?」
「…」
「手入部屋行くよ」

半ば無理やりに連れていく形ではあるが彼を手入部屋に連れて行った。
「こんなの怪我のうちに入らない」と垂れているがそんなのお構いなしだ。
それよりも、どうして怪我していることを教えてくれなかったのだろうか。
自分が審神者としてまだまだ未熟なのは理解しているつもりだけど、そんなに信用できないだろうか。
彼の手入が終わるまでそんなことばかり考えていた。

***

「…以上が昨夜の出陣先での成果だよ」

朝食前の空き時間に歌仙から昨夜の報告を受けた。
相変わらず歌仙の報告は相変わらず的確で分かりやすかった。
そして長い間近侍をしてくれているお陰で自分の心配事も見透かされていた。

「悩み事でもあるのかい?」
「え?…うん、まぁ…」
「…大体は想像ついているけれど、彼のことかい?」

歌仙は具体的にその彼が誰とは言ってはいないがわかっていた。
本丸から見える池を眺めているが自分が発言するのを歌仙は待っているようにも見える。

「…昨日の出陣で大倶利伽羅が怪我をしていたみたいなんだ。隠していたこともそうだけど、彼は昨日どんな戦いをしていたの?」
「いつも通り変わりは無かったと思うよ。だけど今日の出陣先でも注意しておくよ」
「ありがとう、歌仙」

「お安い御用さ」とふっと柔らかく微笑み本丸を後にした。
歌仙の言葉に少し安心した。それと同時に疑問も持った。
どうしていつもと変わりないのに怪我をしていたのだろうか。
まさかずっと前から怪我を隠していたのだろうか。
それとも、歌仙の目の届かないところで戦闘でもしていたのだろうか。
でも、そんなことすればすぐに誰かが声を上げるはずだ。
次々と疑問は生まれるも真相は彼にしか知らない。

朝食を食べ終えてから、各々出陣の準備をしていた。
いつも手合せをしている離れで今日初めて大倶利伽羅を見かけた。

「おはよう、大倶利伽羅。こんなところに居たんだね。朝ご飯は食べた?」
「…別に。それに俺は慣れ合うつもりはない」
「まぁ、気が向いた時で良いからみんなと一緒にご飯食べよう?」
「……」
「それで、昨日の怪我の具合はどう?まだ痛むところはある?」
「…そんなことどうでも良いだろう」

吐き捨てるように彼は離れから出て行った。
そんなに声をかけられるのが嫌だったのだろうか。
それともしつこくしてしまったからだろうか。
モヤモヤしたものが胸につっかえる。でも、悩んではいる場合ではない。
出陣の時間に一刻一刻と近づく。自分も出来る範囲での支度をしなければならない。
「よし」と自分に言い聞かせるように呟き離れを後にした。

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