Novel | ナノ


  リナリア


「…というわけなんだが…その前にお前ら!なんでここにいる!」
「そりゃーギノ先生の初デートの話聞きたいじゃないですかー」
「あら?ダメだったかしら?」
「私たちは悪くないわ。狡噛が誘ってきたから、怒りの矛先は狡噛にむけるべきだ」
「まぁ、気にすんなってギノ」

夜のファミレス。
客は大勢いる。
老若男女。
そして、俺は旧友と話し込んでいる。

俺には先日彼女が出て行った意味が解らなかった。
でもきっと彼女を傷つけたには違いなかった。
理由がわからない限り彼女に謝ることすらできない。
きっと狡噛なら俺の気が付かない点を教えてくれるだろう。
そこで相談を持ちかけた。
が。
それが失敗だったのかもしれない。
オマケがついてきた。
それがこの3人だ。
別に居ても構わないのだが、口うるさい。
そして話が進展は愚か、逸れていく。

「で、ギノ先生は何が悪いかわかないとねー。その女の子バイトの子なんでしょ?わーホントにいい大人が可愛い大学生に手ぇ出すんじゃないよ。これだから童貞は―――」
「…佐々山…ここはファミレスだぞ…」
「うっ!わ、わ、今のは冗談ですって!だからそんな殺気出さないでって!」

佐々山が居るだけで話が進まん。
ただ俺のストレスが増えるばかりだ。
そんなに俺を弄って楽しいか?
この笑顔殴りたい。
大体、なんでこんな奴がモテるのかわからん。

「で、 ギノくんは朱ちゃんのことどう思ってるわけ?」
「は?」
「だーかーら!朱ちゃんのことは好きなの?」
「そんなことは思ったことはない」
「ふーん」

まったく。
唐之森の話は何が良いたいのかわからん。
常守のことを好きだと?
そんなわけない。
その前に俺と彼女の年は離れ過ぎだ。
彼女には同じ年頃の男の方が良いだろうに。

「…でも本当はどこかで好きとか思ってたりしてるんじゃないですか?心の奥底で」
「どの口が言うのか。六合塚」
「どの口って、そもそも宜野座、あんた、常守さんをどうしてバイトに採用したの?狡噛の話だと結構バイトの面接来てたって話だけど?」
「呼び捨てをするな」
「いいから話しなさいよ。そんなに話せない理由でもあるわけ?」
「…彼女を採用した理由は…その、彼女とならやってそうな気がして」
「ふーん」

聞いておいてそれだけか!
六合塚も俺をおちょっくているのか!?
彼女の言う通り、俺はなぜ彼女を採用した?
確かにバイトを募集して数十名ほど応募があった。
なぜだ?
六合塚をかわすために適当な理由を言ったが…。
今になって理由が思い出せない。

「ギノ」
「なんだ狡噛」
「お前は彼女のことどうおもってるんだ?」
「どうって、なんだ」
「うーん、その笑顔が素敵とかってことだよ」
「…彼女は仕事の物覚えも早いし、俺のところで働くよりも違うところで働いた方が良いと思うくらい勤勉だ。本当に勿体ないくらいだ。だが…」
「?」
「彼女は他のところで働いてほしくないとも思う。まったく、矛盾しているがな」
「―――ぶはっははっははっはっ!」
「なんだ笹山!」
「いや、だって、ぶははははっ!」
「…くくっ!」
「こ、狡噛も笑うな!」
「わりぃ、ギノ」

まったくなんだって言うんだ!
狡噛に相談した俺が悪かった!
こんな結果になるとは思っていたが、このままになるなんてな!
ファミレスの周りの人間の目線が痛い。
こんないい大人がファミレスではしゃぐな。

「んもー、ギノくんってば本当に無自覚!朱ちゃんが帰った理由がわかったわよ!」
「ほ、本当か、唐之森!?」
「その無自覚さよ」
「…は?」

唐之森の言っている意味がわからなかった。
周りのやつらは俺の顔を見て笑っている。
そんなにも酷い表情をしていただろうか。


「まだ確定したって訳じゃないけど、きっと朱ちゃんはアンタのことが好きだったのよ。きっと最初はただのバイト先の店長くらいとしか思ってなかったんでしょうけど…」
「おい、唐之森、それはどういうことだ!常守が俺を?ありえん!」
「…宜野座、黙って志恩の話聞いて」
「…わ、わかっている!」
「それでその日、朱ちゃんの恋心を汚すこと言ったんじゃない?例えばー、"俺より狡噛が良いんじゃないか?"みたいなことをね」
「…」

今までの会話を思い出してみる。
俺と彼女は何を話していた?
彼女の大学の話、ダイムの話、俺の学生時代の話…。
彼女の先輩の滕という男と狡噛の話…?
狡噛の話の途中で彼女は帰った。
いや、まさか、だが唐之森の話が本当なら…。

「…やはり女性というものは好きな男の前で、違う男を紹介したら怒るものだろうか…」
「怒るってより傷つく」
「そうね、弥生の言うとおりかも」
「…お、俺はどうしたら良いんだ…?」

「彼女を傷つけた」というものが現実になった。
俺が無自覚なばかりに。
俺は彼女を失ったことに今さら気が付いた。
もうどうしようも出来ないのか?
失ってから自分の彼女に対する思いに気が付かされた。
俺は彼女をいつの間にか愛していた。

「ギノ、彼女は次いつバイトだ?」
「…たしか、明後日だ」
「その日告白しろ。絶対だ。たとえバイトに来なくても、だ」
「だな。ギノ先生は本当に手のかかる男っすね。大人四人がかりでやっと自分の恋に気が付くなんて情けない」
「応援するわ!」
「せいぜい頑張って」
「…あ、ああ」

やっぱり相談して良かったのかもしれない。
うるさい奴らだが、本当に必要なときは時間を割いてまで話を聞いてくれる。
俺は良い友人を持ったな。
明後日、俺は彼女に告白しよう。
なんて言葉で伝えれば良いかわからないが、とにかく俺の言葉で伝えよう。

「いっやーこれで、ギノ先生も童貞卒業っすか!嬉しいっすなー!」
「どんな熱い初体験だったか教えてね?」
「いや、熱いより激しいに違いない」
「まぁ頑張れよ。ほら、実は今日渡すために実は買ってきたから、な?」

前言撤回だ。
こんな奴ら、俺の良い友人なんかじゃない。


リナリアの花言葉
"私の恋を知ってください"

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