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  15


空港のロビーは土曜日とあってか人はそれなりにいる。
ミカサを見送りにと、以前話をしたメンツが揃った。
仕方ないとはいえ、こいつらを騙していると思うと悪いことをしている気分になる。
出発まで2時間ほどあるが、あいつは来るのだろうか。
だが、あのまま眠っていてもらえる方が助かる。

「ミカサ、本当に行くんだな…」
「…まぁ…ね…」
「エレン、ミカサなら大丈夫だよ。エルヴィンさんがついてるって言うし」
「…そうだな…」
「あちらでミカサを充分なくらいサポートするつもりだから、そんなに心配しないでくれ、エレン」
「…はい…」

エルヴィンの余裕がある爽やかな笑顔にエレンは少し安心したようで、表情が柔らかくなっていく。
それを見て、アルミンも少し笑顔になった。
一方、サシャとクリスタは俺に土産の心配をしてくる。

「ミカサ、あちらでお世話になる人にお菓子とか用意してるんですか?」
「…いや特に…」
「そんな…一応持って行ったらどうなんですか?」
「サシャの言うとおりだよ、一応持っていくだけ持って行ったらどうかな」
「…わかった…」

ロビーにあった土産店で適当に選んで会計を済ませた。
土産など買う必要などないと思われるサシャが、どれを買うか迷っている。
クリスタと俺は目を合わせて「やっぱりか」と呆れる。
だが、最後までこいつ達は変わらなくて安心した。
土産屋から戻ると、コニーとジャンが椅子に座っている。
なにか会話をしているようだったが気にせず通り過ぎ、エルヴィン達の元へ向かう。

***

空港のロビーの椅子から眺める景色が時間を告げる。
次から次へと飛行機が離陸準備を進めている。
どれがミカサが乗る飛行機なのか、目で探していた。

「…もう、時間が来ちまう…」
「そうだなぁ」
「…ミカサ、あっちで彼氏とか出来るのか…?」
「かもなぁ」
「…だよな…」
「そんなに気になるのか?」
「まっ、まぁ…エレンが可哀想だろ…」
「…そうかー?」

隣で呑気に缶ジュースをころころ転がしながらコニーは答える。
きっと話は半分程度しか聞いていないのだろう。
けれど聞いていなくても、こうして聞いてくれるだけでありがたい。
残っていた缶コーヒーを飲み干す。

「…もしかして、ミカサのこと好きなのか?」
「!?」
「うわっ!汚ねぇよ!!!」
「そっ、そんなことねぇよ!」
「…そうか、俺、気がつかなかった…」

吹き出したコーヒーをポケットテッシュで拭う俺が目に入っていないようで、そのまま独り言のようにポツポツ話す。
やめてくれ、もし、こんなところでミカサに聞かれたらどうするんだ。

「…告白しないのか?」
「はっ!?」
「しないのか、そうなのか」
「…今日のことは頼むから忘れてくれよ…」

寒いはずなのに背中が汗だらけで気持ち悪い。
誰にもバレないと思っていたのに。
空の缶コーヒーをこれでもかと握る。
スチール缶で潰れない。くそ。
すべてを諦め、缶コーヒーを隣に置く。

「あっ、ミカサだ」
「…」
「良いのかよ行かなくて」
「…別に…」
「後悔しても良いのか?」
「…それは…」

肩を押すコニーは満面の笑みで「頑張れ」と目で応援してくる。
「よし」と気合を入れて、ミカサの方へ向かう。
告白はしなくても良いから、話くらいしよう。
コニーの言うとおりだ、後悔なんかしたくねぇ。

「ミカーーー」
「ミカサ!」
「え…」

ミカサの元へ向かおうとすると、小柄な男が横切った。
俺は時間が止まったように、立ち止まってしまった。
そして、その男はミカサと何か話をしている。
ミカサはエルヴィンさんに話をして、その男とどこかへ行ってしまった。

「…」
「あ、その、まぁ、気にするなって」
「…あぁ…」
「ジャンは後悔しないように頑張ったんだからよ」
「…あ、あぁ…」

少しだけ後悔した。
目の前でミカサが知らない男と2人きりで話に行ってしまったことよりも、俺がもっと早く行動すれば良かったと思った。
俺が飲んだコーヒーはブラックだったようで、喉の奥が苦い。

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