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  11


寒くて目を覚ました。
気がつけば毛布がかけられていた。
無意識のうちにかけたのか?それとも、ミカサが来たのか?
いや、それはないだろう。
考えても無駄だと思い、家に帰る身支度をした。
とりあえず、あいつには謝るか。

「…クソ…」

凍えた身体を温めていた毛布から抜け出し、行かなくてはならない場所を目指す。
部屋から出ると、人影があった。
気にしては居なかったが、消えることのない人影を不審に思った。

「よ…よぉ…!」
「…」

ドングリのような頭に馬面、その上凶悪な目つき。
おまけに両手にはゴミ袋。
こんなになる前にちゃんと行け。
もしかして、こいつが隣人のジャンって男か?
睨みながら様子を伺った。

「…さ、最近帰ってなくて心配してたぞ…え、エレンが」
「そう…」
「な、なぁ、ミカサ。今度良かったら……そその、プラネタリウム行こうぜ…っ」
「…」
「だ…だめか…?」
「…先客がいる」
「そ、そうか…すまなかったな…」
「…その先客と行ったら、考えなくもない」
「えっ、今なんて…」
「気が変わったら行かないけど」
「そ、そんなの構わねぇよ!」
「それはどうも」
「あ、あぁ…!」

ジャンはそのままゴミ捨て場へ向かったが、スキップしているようにも見えた。
男ってのは単純だな。
まだ決まってもいない約束に浮かれる。
先客と行く頃には元に戻っているだろう。
あいつと一緒に行くことを決めるのはミカサだ。
少し変な気持ちになったが、俺の家に向かった。

***

家に入るなり私を睨みつける。
こちらは朝食を食べていたというのに。
手洗いうがいを念入りに済ませ、私の目の前に座る。

「…昨日は悪かったな…」
「え…いや…気にしないでください…」
「…それなら構わない」
「は、はい」

何に対して「悪い」なのだろうか。
しばらくの間沈黙が続いた。
昨夜のことはこれ以上口にすることはなかった。
それで良かったのだと思う。

「…俺は、お前の厚意を受け取ることにした」
「え…」
「なにか?昨夜の発言は撤回か?」
「…違う…ただ、いやなんでもない」

すこし驚いた。
昨夜はあんなに行くことを拒んでいたのに。
彼は机の上に無造作に置いてある名刺を差し出す。

「…それ食い終わったらエルヴィンに連絡するぞ…」
「はい…」

名刺の番号を入力しかけると彼は1コールで待ってましたと言わんばかりに電話に出た。
電話を切って数分後、彼はお店にやって来た。

「おや、お嬢さんも一緒なのか」
「…」
「…ミカサ、そんなに睨むな…」
「あぁ…」

昨日とは違うコートを着ていた。
あの身なりの良さからすると、エルヴィンさんはハンジさんの言うとおり本当に世界を旅するエリートサラリーマンなのかもしれない。
お茶も出さずに今日は話を進めている。

「…リヴァイ、返事を聞かせてもらおうか…」
「返事はYESだ」
「そうか、それは良かった」
「但し、俺は行かない」
「…」
「行くのはこいつだ。ミカサだ」
「…よろしく…お願いします…」

彼は予想外の返答に驚いたようにも見えたが、すぐに笑って言葉を返そうとした。
この人は、どこまで先のことを考えているのだろうか。
爽やかな笑顔が恐ろしく感じた。

「…これは驚いた。君のようなお嬢さんと一緒なら嬉しい旅になりそうだ」
「お嬢さんじゃない。ミカサだ…」
「これは失礼したね、ミカサ」
「…」
「リヴァイ。お前は良いのか本当に」
「…構わない。今の俺には、あそこには行けない…」
「そうか…了解した。ミカサ、確認したいことがあるが良いかな」
「…なんですか…」
「今回行く料理留学は1ヶ月や2ヶ月ってものじゃない。1年だ。1年もシーナに行くことになる。きっと大変なことも多いだろう。覚悟は出来ているのかい?」
「そんなの出来てい…ます…」
「…それではミカサ。申し訳ないのだが、土曜日に空港集合ということで構わないかな?」
「問題は、ないです…」
「それまでに大学のことや親御さん、友人にも色々とあるだろう。私も手続きに手伝いたいのだが、こちらも仕事が立て込んでいてね…」
「…構わないです」
「ありがとう。それでは、私は帰らせて頂くよ」

彼は微笑んで店を後にした。
これでひとまず問題は1つ解決した。辺りを見回せばまだまだ山積みだけれど。
胸の中のモヤモヤが消えていくのがわかった。

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