Novel | ナノ


  08


「なぁ、ミカサ」
「…なに…」
「最近家に帰ってないって本当か?」

金曜日の昼下がりに図書館でエレンと勉強をしている最中だった。
ノートと格闘しながら自然と発されたその言葉に耳を疑った。
返事をしなかったことを不思議に思ったのか、ゆっくりとこちらを見る。

「…なぜ…」
「ジャンが言ってた」
「…ジャン…?」
「お前のマンションの隣に住んでるって、ジャンが言ってたけど、違ったか?」

そんなこと言われても知らねぇよ。
本音はそうだが、状況が状況だけに言えるわけがない。
適当に濁した。

「なんか今日…いや毎日だけど、ジャンの奴うるさくてな」
「…そう」
「ジャンはともかくとして。本当にそうなら、たまには家に帰れよ」
「…」
「お前の家の家賃だって、全部ミカサが出してる訳じゃないし。おじさん、おばさんのお金だろ?」
「…まぁ…」
「わかれば良いんだけどさ」

再びエレンはノートと格闘を始めた。
その様子を見ながら、これからどうするべきか考えた。
こんな無理のある生活だっていつかは終わらせなければならない。
よりによってミカサは、隣人の存在を隠していた。
そのうえミカサやエレン達と同級生で同じ学校だ。
深く聞かなかった俺も悪い。
解決策はほかにはないのか。
今は思い浮かばない。
ゆっくりと読んでいた本を閉じた。

***

彼の書斎に掃除のついでに入り浸っていると、時間は昼を過ぎていた。
最初のうちは、ちゃんと掃除をしていたのだけれど一度本を息抜きに読んだのが間違えだった。
棚にぎっちり入っている本の1つ1つは、時間泥棒だった。
気になる本を見つけては読んで戻す、また出し戻す。
その繰り返しだった。

「…何をしているの…」

自戒の念に駆られるが、そうなっても全てが遅い。
むしろ開き直ってしまった方が良いのかもしれないと思い、気になる本を漁る。
彼の本は料理に関するものばかりだった。
料理の基礎的なものから、料理用語、キッチン用具のカタログまで取り揃えている。
よく見るとそれらは左から右へ名前順、大きい順、と並んでいた。
これを暇なときに並べていたのかと思うと、彼らしいなとは思った。
ふと、目に付いた本があった。
一番端っこの棚に追いやられた本だ。

「…よくわかる…シーナ…の歴史…?」

ほかの本と比べると色褪せていて随分と古い本だった。
手に取って読んでみると、かつて栄えていたとされる城塞都市の王都、ウォール・シーナに関する歴史の本だった。
あの人は歴史にはあまり興味がなさそうだと思ったのに、こういった本を持っていて驚いた。
もしかしたら歴史が好きなのかもしれない。
彼に聞こうとは思ったが、聞いたら面倒そうなのでやめておくことにしよう。
本をそっと閉じ、元の場所に戻す。
さすがに空腹には敵わなく、昼を食べに書斎を後にした。

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