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  06


帰り道、雪は降っていないが寒かった。
最寄駅から店長の自宅までは徒歩で10分程度だ。
あと少しの辛抱だ。
ふと、前に人影が歩いている。
よく見ると私だ。近くまで歩み寄る。

「…ミカサ…」
「…リヴァイさん…今、帰りですか」
「あぁ。お前、途中消えたけど何処か行ってたのか?」
「…まぁ、ちょっと…」
「そうか」

結局、エレンとのデートはどうだったのだろうか。
聞くに聞けない。
表情を見る限りあまり良くなかったようにも見える。
いや、ただ寒さで顔が強ばっているのだろう。
本当に今日は散々な思いをした。
そんなことを思いながら天を仰ぐ。

「…星が、綺麗…」
「そうだな」
「…本当に、綺麗だ…」
「あぁ…」
「…そういえば、大学の近所にプラネタリウムがあるらしい」
「そうなのか」
「はい。私は行ったことはないけれど、大きいらしいです」
「詳しいな」
「…アルミンが、昔言ってました」

この街に住み始めた本当に最初の頃に言っていた。
3人でいつかは、プラネタリウム行きたいねとは話していたが、今のところそれは実行されていない。

「そんなに行きたかったら行ってくればいいだろ…」
「…少なくとも元に戻ってからにします。3人で行くって決めてたし…」
「あぁ、そのほうがいい」

私の顔をした彼は、そのまま何も言わずにスタスタと進む。
雪を踏みしめる音が今朝よりも響く。
置いて行かれまいとその後を追う。
しばらくして、足音が急になにか思い出したように止まる。

「…おい」
「急になんですか」
「お前、どうせ俺の家で暇してるんだろ?」
「そんなことありませんけど」
「…だったら暇になったら使え」

そう言って私の鞄を漁る。
私に漁ったものを差し出した。
丁寧に包装された長方形の箱だった。
包装を外そうと思ったが注意されてしまった。

「…なんで、包装紙外したら駄目なんですか…」
「ここでは止めろ。ここではな」
「なら、そんな物騒な物を私に渡さないで下さい」
「悪かったな。じゃあ返せ」
「中身は何が入っているんですか?」
「…包丁だ」
「包丁ですか…」

言われてみればここで開ければ物騒だ、呑気に寒空の下考えてしまった。
私の姿をした彼は、その箱を見つめていた。
近くを見ているはずなのに、どこかその眼差しは遠くを見ていた。

「…そもそも刃物を贈るって、縁起悪いと思います…」
「そうか」
「…まぁ、でもせっかく貰ったので使わせていただきます」
「あぁ」

受け取った箱をジャケットのポケットに突っ込んだ。
「雑に扱うな」と言われたが、少しだけ頬が緩んでいたように見えた。
だが、口元が寒いのかすぐにマフラーで覆い止まった足を動かし始める。
貰った物が包丁とは彼らしいなと思ったけれど、きっとこれが彼なりの心配なのだろうか。

「…良かったら一緒に料理でも付き合いましょうか?」
「よく言うよ」
「じゃあ、まず…そうですね…プリンでも作りませんか?」
「…バカ言え、プリンは包丁使わねぇよ」

眉を顰めて控えめに気が抜けたように笑う姿に驚いた。
私の身体とは言え、この人だって笑うんだ。
今まで仏頂面しか見たこと無かったから余計にそう思ってしまった。
残りわずかな帰り道。雪が優しく降りはじめた。
ポケットに入れた箱を撫で、ほんの少しだけ、この包丁で料理を出来ることを楽しみにしている自分がいた。

数日後、まだ私たちはそれぞれ覚悟を決めなければならないことをまだ知らない。

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