Novel | ナノ


  04


「…という夢を見ました」
「テレビ見ながらソファでふんぞり返って寝てた奴がよく言うな」

文句を垂れながらコーヒーを飲みながら、新聞を読んでいた。
私は寒くて起きた。しかも気がつけば朝だった。
その上、ソファで爆睡していた。
毛布がかかっていたのがせめてもの救いだったかもしれない。
彼曰くドラマがあまりにつまらなくチャンネルを変えようとしたところ、私は寝ていたそうだ。
結局のところ、どこまでが現実だったのだろうか。
朝のニュースを見ながら、朝ごはんを頬張った。

「じゃあ、行ってくる」
「…今日の講義は2時限からじゃなかったですか?」
「散歩だ」

背中で会話するように、こちらは一切見なかった。
そして、出て行った。
でも教科書を入れているリュックを持って出た。
散歩だったらリュックなんて必要ないはず。
本当に何を考えているのか、わからない。
ただ、私には理解できないけれど、なにかを考えているのだろう。
朝8時を告げるニュース番組が始まった。

***

冬の朝の風は冷たい。
頬が凍てつく。
まだ雪が降っていないだけまだマシだ。

「…クソ寒ぃ…」

夜のうちに積もった雪が、歩けばギュッギュッと音を立てる。
行き着いた先は大学の図書館。
図書館の建物は大きく、本を守る要塞のようだ。
壁のように立ちはだかる要塞に俺は足を運んだ。

***

はっきり言ってしまうと、家に居てもすることはなかった。
店長はこの時間帯何をしているのだろうか。
きっと彼のことだろうから掃除でもしているのだろう。
仕方なく箒片手に完全装備で家を出た。

店の前には雪が積もっていた。
雪を踏みしめる音が耳に染みた。
これは、掃除をする前に雪かきをしなければならないと思い、雪かきの道具を探しに行こうとした時だ。

「リヴァイ店長さん」

その声に何も思わなかったが、声の主に再び声をかけられ気がついた。
今は自分が「リヴァイ店長」なんだと。

「…その、聞きにくいんですけど急に臨時休業だなんて、なにかあったんですか…」
「え…」

夕焼けの色をした髪の女性は不思議そうにこちらを見ていた。
この人を何度か見たことがある。
だけど、誰か思い出せない。
その女性は更に私に問うてくる。

「もしかして、どこかお身体悪いのですか?」
「いや、そんなことは…」

彼女は少し安心したような表情をしていた。
その表情にどうしたら良いのかわからなかった。
今、ここで変なことを言えばこの人は期待してしまう。

「…その、いつまたお店再開出来そうですか…?」

手が止まった。
答えられない、そんなこと。
休業した理由が理由だけに答えれるわけがない。
どうしたら良い。
手に持った箒を強く握る。

「お店は、しばらく再開しませんよ」

どこからか声が聞こえた。
私と彼女は辺りを見渡すが何もいない。
「う、後ろです」と背後から声が再びし、その声の主を確認出来た。
小柄な金髪の少女だった。
クリスタだ。

「ですよね、店長?」
「…あぁ。そういうことだ、ご…悪いな…」
「そんな、こちらこそこんなにお聞きするつもりも無かったのに…ごめんなさい」
「いや…」
「何やってるんだ、ペトラ」
「オルオ…!ほんと、あんたどうしてこうも、タイミング悪く来るのよ…」
「…わ、悪かったな…」

ペトラという名前で思い出した。
この人はこの店の常連客だ。
よくこのオルオという天然パーマの男性と来るが、この2人の関係は一体どんなのかは知らない。
知りたいとも思わないけれど…。
まぁ、見る限り仲は悪いというわけではない。

「さて、そろそろ私行きますね。じゃあ、お店再開するの楽しみにしてます!」

彼女は控えめに手を振って、男性と一緒に寒空の中消えていった。
箒を握りながら、考えていた。
どう返答すれば良かったのか。

「…店長…?どこか具合悪いんですか?なんだか、顔色が…」
「いや…考え事をしていた」
「そうなんですか?」
「…そういえば、大学は良いの…か?」
「今日、1時限はお休みなので大丈夫です」
「そうか…」

クリスタは私たちと学ぶ学科は違えど同じ大学に通っている。
その彼女も同じホールのバイトの一員だ。
よく見ると手に何か持っている。

「あ、これ、紅茶です。お口に合うかわかりませんが飲んでください」
「…ありがとう…」
「でも、さっきはしばらく開店しないって言いましたけど、私たち待ってますから」
「…」
「あっ、でも、無理しないで下さいね。その、腕、治るの待ってますから!」
「…腕…?」
「あれ、違いました…?ミカサったら、何かと間違ったのかな…」

そう言いながら、彼女は眉をひそめていた。
ミカサ、ということは店長が2人に伝えたのか。
少し安心した。
認めたくはないが、配慮が行き届いている。

「…いや、腕で合っている。…ありがとう、クリスタ…」
「あ…い、いえ、そんな気にしないで下さい!」

すこし戸惑ったようにも見えたが、すぐに優しく笑った。
クリスタが天使と言われるのが少しわかった気がする。
少し嬉しそうに行くべき場所に彼女は行った。

***

図書館は暖房が効いており、それほど寒くはない。
窓から見える景色と室内の温度差に少し身体がついていかない。
目当ての本を探し、適当に座る。
学生は少なく本に没頭出来ると思ったが、それは阻止された。

「あれ、ミカサじゃん」

その声は聞いたことがある。
ミカサの馴染みのエレンだ。
そのままエレンは俺が座っている席の向かいに座る。
これはまた面倒なことになりそうだ。

「早いな。そんなに家に居るの暇だったのか?」

それはこちらのセリフだ。
悪いが俺は暇な人間じゃない。
そのために図書館に来た。

「少し、勉強をしようと思った」
「熱心だな。で、今読んでる本がそうなのか?」

咄嗟に読んでいた本を閉じた。
そして表紙を見る。
あぁ、これはきっとこいつが読むような本ではないなと思いつつ、エレンの方にゆっくり視線を向ける。
エレンはどうも思っていないような表情をしていた。
俺にとっては喜ばしいことだが、ミカサ、お前にとってはどうなんだ?
そう思いながら、小さく頷いた。

「そうなのか。ところで話は変わるけどさ」
「…なに…?」
「ミカサ、お前今週の土曜日暇か?」
「まぁ、多分、暇…」

今週の土曜日と言っても明日じゃないかと思いながら適当に答えていた。
それを俺は後で後悔した。

***

気がつけば時間は6時を過ぎていた。
今日は1日中掃除しかしていない。
念入りに掃除をした。お昼を抜いてまでだ。
空腹は限界を通り越し、今はお腹すら空いていない。
夕飯を作ろうと思ったが、勝手にキッチンに触れるのも申し訳ないと思い、ソファに座りテレビを見ていた。
しばらくしてから玄関の方が騒がしくなった。
帰ってきたのだろうと思ったが、そのままテレビを見続けた。

「…」
「…あ、おかえりなさい…」

私の顔は無表情でまるで人形のようで、とても酷い顔をしていた。
こんな表情で街中を歩いていたのだろうか。
あまりにも酷すぎてかける言葉すらなかった。

「…おい、ミカサよ…」
「はい」
「先に言っておく。恨むなら俺を恨め」
「…はぁ…」

何をこの人は行っているのだろう。
ドアの前で暗い表情をしながら淡々と続けた。

「お前の馴染み…エレンとだ、明日、2人で出かけることになった…」
「…」

私は何を言っているのか理解できなかった。
ただただ時間が過ぎていった。
流れるテレビの音に、自分の心がかき消されていった。

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