二度目の、春
芽生えの春は繰り返される。
私は今年で、大学二年になる。
結局引っ越す話は無くなった。
今の暮らしを変えることを拒んだ。
一年前の私にはとても想像の出来ないことだ。
そして、彼も新たな道を進む。
「…なに、そのスーツ、似合わない…」
「るせぇ」
玄関先での他愛無い会話。
ガチャガチャと大げさなほど音を立てながら鍵をかける。
お互いに大人気ないのは百も承知だ。
「どうですか、社会の荒波に揉まれた気分は」
「悪くない」
その言葉はとても便利だと思う。
否定をするわけでもないし、肯定をするわけでもない。
それ以前にこの人は社会人としての適性はあるだろうか。
常に上司に刃向っているのではないか。
「心配するな。お前と違って俺は上司には噛みつきはしない」
「…あなたと一緒にしないで」
「そうか」
たまに心を読まれたかのように発する言葉が苦手だ。
しかも、その何を考えているかわからない表情で言われるから余計に。
彼と出会って今の私はきっと一年前の私と別人だろう。
それを彼にも言えるかと聞かれたらそれはわからない。
少なくとも彼は彼のまま。
何も変わらない。
この道を歩いていくともう少しで丁字路に入る。
そこで私たちは右と左で別れる。
右は彼の職場、左は私の大学。
「今日の晩飯なんだ…」
「え?」
「だから、今日の晩飯はなんだ」
「…カレーにしようかと思ってる」
「…悪くない…」
相変わらず何を考えているかわからない。雲を掴むような気分になる。
「…なんだ、そんなに俺にカレーを食われるの嫌なのか?」
「違う。ただ、メニュー変更するかもしれない」
「そうか」
丁字路まで来た。
ここで、暫しの別れだ。
「じゃあな、気を付けて行けよ、ミカサ」
「わかってる」
別に、悲しいことではない。
苦しいことでもない。
「リヴァイ!」
「あ?」
今の私はどんな表情をしているのだろうか。
だが、少なくともあの時のような表情ではないのだろう。
「帰るの、待ってるから」
366日目の彼との生活が始まった。
July 18, 2013
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