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静かな夜だった。
風もない、月も出ていない、なにもない夜だった。

「…お参り、来ましたけど…」

墓石の前にしゃがむ。
兵長のお墓は簡素なものだった。
かつて人類最強と謳われた人間でさえ、死んだあとはただの兵士扱いだ。
むしろ、その方が兵長にとっては良いことなのかもしれないけれど。

「…あとちょっとで、ちょっとで約束、守れるかもしれません…」

撫でるように墓石に触れる。
「汚ねぇ手で触るな」と居たら言われるかもしれない。
でも、もう兵長はいない。
死んでしまった。
死んだ人間は帰らない。

「…だから、どうか、みんなを見守ってください。もし、そっちに行きそうな兵士は、全員殴って、こちらに戻るよう口うるさく説教でもしてください…」

手元にあった花を墓石に添える。
そして立ち上がる。
明日、巨人を絶滅出来るかもしれない。
あと一歩手前なのだ。
人類が完全勝利する日が目の前にあるのだ。

「行って来い」

そう背中を押すように声が聞こえた気がする。
後ろは振り返らない。
ただ、前を向く。
私は戦う。

あなたが嫌っていた人類最強という希望の光を背負いながら。

July 7, 2013
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