07
エレンは男たちを容赦なく殴る。
その姿は昔を思い出す。
「…エ、エレン、なにを…逃げて…!」
「っせーな…手間かけさせやがって…クソが…!」
男たちの足を蹴り、その隙にボディーブローをかます。
清々しいくらいの殴られようだ。
「…おいおい、これで終わりか?そんなんじゃ、ミカサを奪えないぞ」
その拳と脚は止まらない。
もう男たちは戦意すら喪失しているのに。
「エレン!これ以上やると、死ぬ…!」
ハッと我に返ったようにエレンは動きを止めた。
男たちはぜぇぜぇと呼吸を荒げる。
よくもこんなに殴られて無事だ。
「…エレン、いくらなんでも、これは…」
「そうだな。少しやりす、ぎた…」
「エレン!?エレン!エレン!!?」
エレンは力尽きるように膝から崩れ落ちた。
崩れるエレンを私は抱きしめた。
***
目の前には少年を抱きかかえる少女がいた。
普通は逆だろうが、この二人にはそれは通用しないだろう。
見ていてなにか歯がゆい。
「エレン、起きて、死なないで」
「…別に死んじゃいねぇよ…」
ぐったりしているエレンを抱きかかえる少女に言う。
少女は刺されたように驚いてこちらを見る。
その表情は、とても情けない表情だった。
「…へ、いちょ…?どうして、ここに…」
「…たまたまだ…」
「そう、ですか。…エレンが、エレンが来て、それで、それで…」
大粒の涙を一粒流す。
流した涙は一筋の線となってぽたりと落ちる。
エレンを抱える手が固く握られる。
それで良い。お前はそれで良い。
自分を忘れるな。
守りたいものは自分の手で守れ。
「…わ…わたし…」
「はぁ?」
「抵抗…できなかった…なにも、でき…」
唇を噛み言葉を飲み込んだ。
少女は悲しそうな顔をしていた。
「…エレンが助けてくれただろう?それだけで十分だろ…」
「そうですけど…でも…」
「でも?」
「…それより…どうして今頃、戻ってきたのですか…?」
「…たまたまだと言っただろう…」
「すみません」と小さくつぶやき、エレンを強く抱きしめた。
いくら強靭な肉体でも、まだ子供だ。
ただの少女だ。
震えるその手が小さく見えた。
俺自身、小さい手をどうすることもできない。
「…兵長…なにかあったのですか…?」
「…いや、なにも…」
ふと合った視線が先ほどの弱弱しい少女の瞳ではなかった。
しっかりと芯のある眼差しだった。
悪くない。俺はその目は嫌いではない。
だが、今は、逸らしたい。
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