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  06


その後もいつもの場所で立体機動を使う。
兵長が消えて五日ほど経ったのだろうか。
小姑のように吠える声が居なくなった分、訓練に身が入り集中できた。
だが、なにか足りない。

「…おい」

その声の方へ振り向く。
見知らぬ男が二人立っていた。
見るからに怪しい男だった。
真っ先に顔をマフラーで隠す。

「…なにか御用ですか…」
「なかなか美人じゃねぇか」
「あぁ。これは上玉だ」

話しても無駄だと直感した。
立体機動を武装している私に勝ち目はある。
戦うつもりは全くない。逃げる。
こんなところで戦って兵団に迷惑をかけるわけにはいかない。
隙をついて立体機動で逃げるつもりだった。

「おっと。逃げちゃ駄目だぞ、お姉さん。タダ飯食ってるんだから、少しは遊んでくれるよなぁ?」
「…やめてください…」
「嫌だよ。ほら、こっち向けって。俺たちと遊んだ方が、訓練なんかより楽しいから」

腕を引っ張られる。
振りほどくがもう一人に押さえつけられる。
やめろ。私に触るな。

「…そういえば、調査兵団に東洋の女がいるって聞いたが…もしかして、アンタ?」
「!?」
「あっ!やっぱり、この反応はそうみたい」

フラッシュバックする。
あの光景が。
昔見た地獄のような光景が。
正当防衛で軽傷を負わせるくらいなら問題はないはずだ。
ギシギシと音を立てトリガーを強く握る。

「女の子がそんな目つきしちゃ駄目だろう?」
「そういえばこの前、アンタに似た鋭い目つきのチビな男と似てるな。もしかして家族?」
「…は?」
「あ、もしかして知り合い?なんて名前だったか憶えてるか?」
「忘れた。でも、名前なんか名乗って無かっただろ。でもたしか、人類最強って名前だったよな」

男たちは笑った。
なにが可笑しい。

「でも、殺しちまったもんは仕方ないよな」
「俺たちが人類最強名乗って良いんじゃないか?」

***

「あぁぁあぁあぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁ!!!!!」

雄叫びのように声を荒げた。
確証はない、どこにもない。
ただ、嫌な予感しかしなかった。
こいつらが、こいつらが…!
いつもの冷静さの欠片もなかった。
トリガーを握る手は震えていた。
男たちは呆気にとられていた。

「おい、なんだよこの女。急に暴れやがって!」
「もしかしてこの前、殺っちまった男の女だったのか?」
「…今すぐ…今すぐ、あなた達を…あなた達を…!」

鋭い目つき。
チビ。
人類最強。
最近殺された。

全て、彼の条件に当てはまる。
こんな奴らに兵長は殺されたのか?
なんで、こんな、こんな奴らに…!
兵長なら、ためらいもなく抵抗するはずなのに。
唇を噛む。すこし血の味がした。

「…まったく物騒だな。大声出しやがって。でも、アンタも幸せものだよなぁ。あんなに男に思われてて。でも、これからはあの男の分まで楽しんでやるから安心しな」
「兵長に何をした!」
「調査兵団の東洋人のことで、ちょーっと聞いただけ。つーか俺、まだ殴られたところ痛い」
「あー、俺も。でも、アンタのことで脅したら無抵抗とか。男の鏡だね」
「…いま、なん、て…」

兵長が無抵抗?そんな、そんな。
あの人が脅されたことで無抵抗になるような男ではないと思っていた。
深く考えた。
そして、血の気が引いた。
東洋人は私じゃないか。

私が兵長を殺した。

放心状態の私をここぞとばかりに男たちが襲ってくる。
男たちの手が私に触れる。
着ていた服も脱がされようとした。
抵抗しようとするが力が入らない。

「…触んじゃねぇよ、この野郎…」

男たちは動きを止めた。
薄目で何が起きたのかを確認する。
そこに立っていたのは、獣を狩るような目をしたエレンだった。

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