02
「…それで、殺された時の記憶は何も残ってないのですか?」
あのあと、兵長をエレンに合わせても、アルミンにも合わせても同じ返事だった。「死者を冒涜するな」と。
私は相当落ち込みそのまま夕飯を食べずに部屋に直帰した。
兵長もついてきたらしく、無愛想に窓際で外を眺めていた。相変わらず態度がでかい。
そして質問に戻る。
「…あぁ。殺した人物を思い出したところで、そいつを自分で咎めることはできないがな…」
「そうだとしても、悔しいがあなたを失った損害は大きい。だからそいつを巨人の餌にでもしてしまおう」
「…口だけは達者だな…」
仏頂面の男はどこか遠くを眺める。
どこを見ているのかわからない。
未来でも見えるのだろうか。
「…それにしても、なぜあなたは成仏しない」
「悪かったな」
「あなたが成仏しないせいで、私はエレンとアルミンに変な目で見られた。今日は…いや、明日も目を合わしてくれない」
「そうか」
「そもそも死んだ人間がいることがおかしい」
「だな」
表情一つ変えず返事をする。死んでもそのスタンスは変えないつもりのようだ。
そのせいか、まだ兵長が死んだ実感がない。さっきまで火葬されていたのに。灰になってしまったのに。
だが、その実感がないのはお互い様なのかもしれない。
わからないことが多すぎた。俺が死んだことはともかく、なぜあいつにだけ見えるのだろうか。
俺はともかくあいつもこういった現象は信じるクチではないだろう。むしろ否定する側だろう。
考えれば考えるほど謎が深まる。が、考えたところで何も変わらない。
「…ミカサ、お前はこの現象をどう思う…」
「どうって…。絶対おかしいです。死んだ人間は喋らない。なのに、あなたは喋る」
「…そうか…」
やっぱり、こいつには少々言葉が通じないようだ。
通じたとしても語彙力が無いのか、会話が成り立たない。
俺が生きている間にもう少し説得力のある話し方を叩き込めば良かったのかもしれない。
「そろそろ寝ようと思うのだけど、明日目が覚めたら、あなたが成仏していることを祈ろう」
「そうだな。よりによってお前にしか見えないのが胸糞悪い。まだエレンのほうがましだった」
「…エレンは渡さない…」
「…冗談だ。いい加減ガキはクソして寝ろ」
「うるさい」
そう言い放ち、ミカサはベッドに横たわる。
本当に可愛くのない女だ。
それを横目に自室に戻った。
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