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  10 Dies ist meine Auswahl


Dies ist meine Auswahl

何を言っているのか理解できなかった。
理解できなくて兵長の方をずっと見ていた。
兵長はただ、前を見ていた。

「…人は死ぬ。必ず、どんな形であっても、いずれ死ぬ」
「はい…」
「…俺はきっと長い夢から覚めないだけだ。ただ、それだけだ…」
「…?」
「はぁ……さっきのは独り言だ。あぁ。お前の言う通り、人は一回しか死なねぇよ。お前は正しい」
「…はい…」

ただ前を見ていた表情は何一つ変わらない。
まるで人形のように、表情は固定されていた。

「…兵長…」
「あ?」

こちらを向いた彼の眼は死んでいた。
生きているのに、死んだ目をしていた。
私の顔を確認するように見つめ、そして、視線を戻した。
消えてしまいそうだった。

降りたての雪が溶けるように、この人は消えてしまう。
行っちゃだめ。
そっちに行っては、だめ。

「…!? …おい、なんの真似だ…?」
「わか、らない」
「は?」

兵長の左腕を掴んでいた。
なにを私はしているのだろうか。
身体が勝手に動いていた。

「…行かないで…ください…」
「は?」
「…あなたは、勝手に…どこかに行ってしまう、気がします…」
「勝手に置いて帰らねぇよ。それともお前、そんなに一人が怖いのか?」
「…」

左腕を掴む右手に力が入った。
けれど、兵長は眉一つさえ動かさない。
なぜか悔しかった。
私にもっと言葉を簡単に伝える力があれば。
そしたら今思っていることが伝えれるのに。
とても、もどかしい。

「…リヴァイ兵長…良いです。もう、良いんです…」

確信なんてない。
ただの憶測だ。

「…だから、だから…」

でも、その憶測を信じようと思った。
それはとても脆いものかもしれないけれど。

「私も…兵長の…」

脆くて頼りないものかもしれないけれど。
どうにかしたいと思ったから。

「るせぇよ、クソガキ」

この人は背負いすぎている。
要らないものを、背負っている。
一人で背負わなくて良いものを背負っている。
本当はとうの昔に限界は超えていたんだろう。
なのに無理をする。
誰よりも辛いはずなのに。
誰よりも苦しいはずなのに。

それでも涙は流さない。

悪夢から覚めない明日が来るのが怖いはずなのに。
あなたが抱えているものが辛いはずなのに。
私が、あなたの抱えているものを救えませんか。
少しでも、ほんの少しでも良いから。
私は、いつからこの人の背負っている荷物を半分背負いたいと思っていたのだろうか。

「…私は―――」
「!?」

それは突然だった。
私たちは、のんびり会話している場合でなくなった。

***

「…巨人…?」
「そうだ」
「戦うしかない」
「…あぁ…」

夜なのに元気が良い巨人がこちらに向かっているが暗くても見えた。
奇行種だろうか。それともただ単に夜更かしが好きな巨人だろうか。
どちらにせよ、こちらに向かっているのは変わりない。
倒すしかない。

「…兵長は黙っていてください。あれくらいなら、私一人で…」
「それはこちらのセリフだ」
「怪我、してるくせに」
「せめてものハンデだ」
「…格好つけているつもりですか?」
「ミカサ、お前、いちいちうるさいぞ」
「…気のせいだと思います…」

来い。
いつでもそのデカい図体を削ぐ。
足音が近づく。実に不気味だ。
その時が来るなら一瞬だ。
カチャっとトリガーを握る音が虚しく響く。

「…来たぞ…」
「私がやります。兵長、あなたは怪我をしている」
「俺がやる」
「…私がやります」
「…」
「俺がやる、お前は手を出すな」
「嫌です」
「…勝手にしろ」
「はい」
「…ただ…」
「?」
「死ぬんじゃねぇぞ」
「…わかってます…!」

そうこうしているうちに、巨人が風車に激突した。
強い衝撃だった。
風車は煉瓦造りだから、あと二、三回激突されても大丈夫だろう。
互いに目で合図を送りあった。
巨人は二体。
この程度なら数秒で片付く。
巨人の位置を特定し、アンカーを風車に固定し巨人を削ぐ。
ミカサの動きが以前より格段と良い動きをしていた。
まるで蝶が空を舞うような、しなやかで軽い動きだ。
思わず見とれる。
だが、まだ少し勢いが足りない。
そのまま互いに空中で背中合わせのような態勢を取る。
うなじ目がけて、鳥が急降下するようにそのまま削いだ。
削がれた巨人は膝から崩れるように倒れる。
これで心配ない。
アンカーを巻き取ろうとした時、がくんと目の前が歪んだ。

「…兵長…!?」

悲鳴にも近い声が真っ黒な世界に響く。
巨人がまだ居た。
細心の注意を払った。が、俺のつめが甘かった。
両足を掴まれて自由が利かない。
精一杯左腕を振り回すが届かない。
右腕は無意識に庇っていて、動かない。
動け、クソ野郎。

「兵長―――!」

ミカサから離れていく。
あぁ、また、か。俺はまた死ぬのか。
今回も多くの犠牲を払った。
俺が選択を間違えなければ。
彼らは生き延びたかもしれない。
今回のような結果にならなかったかもしれない。
こんなところで俺は終わるのか?
俺は―――。

開いた目を完全に閉じて、辺りは本当の闇に包まれた。

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