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  09 Wahrheit ist gebrochen


Wahrheit ist gebrochen

「…誰も、居ないですね…」
「バカか。居たら困るだろうが」

馬を留め、薄暗い風車の中を探る。
埃は被っているが使われていた形跡がある。
きっと五年前までは使われていたのだろう。

「…兵長、傷は痛みますか…?」
「たいしたことねぇよ」
「…嘘、ついている…」
「は?」
「応急処置は一応した。…けれど、痛みは取れてない、んでしょ…?」
「…そんなことはどうでも良い。ガキは寝てろ。悪いが俺はこの風車を見張る」
「なにを言っているんですか?そんなの私がやる」
「お前に任せると不安だ」
「…気のせいです、そんなの…」
「るせぇな…っ!」
「あ…っ」

条件反射的に兵長は右腕を押さえた。
腕を押さえた手を解くために、そっと手に触れる。
兵長は物凄い形相で睨んできたが、そんなことお構いなく押さえている腕をゆっくり解く。
止血したはずなのに止まっていない。

「…止血…できていない…」
「気にするな。こんなのかすり傷だ」
「…でも…痛い…」
「なんでお前が痛がるんだよ…」
「…だって…」
「お前に心配される筋合いはない」
「…」

たらたらと流れる血は、薄暗い中でも確認できた。
どうにか、血を止めるものは…。
辺りを見回して探すが、手ごろなものは見当たらない。
ふと思いついた。
…あった。これなら、きっと大丈夫。

「お、おい。お前、正気か?」
「はい」
「…やめろ。俺が嫌だ」
「…あなたがなんと言おうと関係ありません」
「おい、これは命令だ。止めろ。俺のマントを使え」
「…嫌です…」
「やめろ」
「嫌です」
「くどい」
「…たった一人の私情の為に、兵団の主力を失うのは…もう、嫌です…」
「…」
「だから、私は…あなたを助けたい」
「……チッ…。もういい、好きにしろ」

頭をくしゃくしゃと掻きながらマントを脱ぎ、右腕を差し出した。
私は、エレンから貰ったマフラーを首から外し、そのまま動脈付近にきつく巻いた。
「後から汚ねぇとか言うなよ」と小声ぶつぶつと兵長は喋っていた。
大丈夫。汚くなっても洗えばいい。それで、あなたが助かるのなら、それでいい。
止血をするためにマフラーを使ったことに後悔はしていない。
兵長は再び着にくそうにマントを羽織った。

「…悪いが、見張りは譲らない」
「私も見張ります…兵長は中で、私はバルコニーに出て見張ります」
「…ガキは寝ていろ…」
「ガキじゃありません」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…クソ。降参だ。降参する。やりたきゃ好きにやってろ」
「そうします」

バルコニーにそのまま出た。
兵長も後ろから付いて来た。
もうすっかり日は沈んで星と月しか灯りは無い、真っ暗な世界になっている。
見張りをすると言っても、巨人は夜に活発に動かない。
だけどなにが起こるかなんて誰にもわからない。

***

バルコニーに足を抱えて二人で座る。
第三者から見れば平凡な光景にしか見えないだろう。
だが、ここは巨人の領地だ。いつ襲撃されてもおかしくない。
全く平凡とはかけ離れた戦場だ。
風は冷たかった。
マントで身体を覆っているが、それ以上に風の方が冷たい。

「…寒い…」
「なら、中入ってろ」
「…寒くない…」
「どっちだ」

くだらないやり取りだ。
実にくだらない。
改めて思うと久しぶりの会話だった。
あの日、兵長に兵団を辞めろと言われた以来だ。
今思い返せば、腹が立つ。
言い過ぎだと思う。

だけど、自分の悪い所が出てしまったのは認めている。

「今日も…多くの兵士が死にました…」
「…そうだな…」
「けれど…救えた命もあった…」
「…そうか…」
「この世に、身勝手に死んで良い命は無い、そう思う」
「…あぁ…」

私の父さん、母さん。
エレンのおばさん。
巨人によって殺された人。
みんな、身勝手に死んで良い命ではない。

「…エレンを守る、ことも大事。それは、一番…だけど、私が戦えば救える命も、ある…」
「そこまでエレンを大事にする姿勢はここまで来ると清々しいな」
「…でも今日は違う。…たくさん戦った。エレンを守る以外に、戦った」
「…」
「…一人死ねば多くの人が悲しむ、から…」
「お前、また変なことでも企んでるのか?」
「違う」
「だったらなんだってんだ。…お前は見ていて危なっかしいんだよ」
「私は、危なくない」
「どの口が言ってんだ?」
「悪いですか?」
「………もう…彼らが何度も死んだように、お前のその姿は見たくない……」
「…は?」
「あ?」
「…今なんて?」
「……なんのことだ?」
「今なんて言ったの?」
「…は…?」
「彼らが、何度も…?どういうこと?人は一回しか死なない。なのに、あなたの言い方だと、何回も死んだように聞こえる。それは、私に理解力がないから?」
「…」
「ねぇ」
「…」
「どういうこと」
「…」
「教えて」
「…」
「私が変なの?兵長が変なの?」
「…」
「ねぇ、教えて?」
「……チッ…うるせぇな…」

なんで、こいつはどうでも良いことはちゃんと聞いてるんだ。
舌打ちした音が空に響いた。
とても乾いた音をしていた。

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