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  08 Ich beschloss zu leben


Ich beschloss zu leben

日が暮れようとしたとき撤退命令が下された。
今回の被害は前回よりも少ないだろうとアルミンは言っていた。
私もそう思う。
前のようなアクシデントは無かったし、遠征距離も短いからだ。

「…にしてもミカサは凄いね。僕は何も出来なかったよ…」
「アルミンは私に指示を出してくれた。その指示が無かったら私は戦えなかった…」
「ありがとう、ミカサ」
「…うん。早くエレンと合流しよう。心配、だから…」
「そうだね。でも、きっとエレンなら大丈夫だよ」
「うん…」

馬を走らせながら壁内に帰ったら、したいことを考えていた。
まず、エレンに声をかけて…。
そのついでに兵長に…。
兵長…?
そういえば兵長はどうしているのだろうか。
なんだか胸騒ぎがした。
でも、気のせいだろう、きっと。
ふと西の方角に目をやった。

「…あれは…」
「どうしたの、ミカサ」
「……人…?いや、違う…」

夕焼けに染まった大地に一つの影があった。
その影をよく見る。
巨人?いや、小さいからきっと違う。
人間?それでは大きすぎる。
…馬?

「必ず戻るから、先に帰って」
「でも…」
「大丈夫。絶対帰るから」
「…わかったよ。気を付けてね」
「うん」

その影に近づく。
目を少し細めてよく見る。
どくん、と胸騒ぎがした。

「…やっぱり、兵長の馬…。あっ、どこへ行くの?待って…っ」

兵長の馬は私が近づいて来るのを確認したように走って行く。
少し走っては止まり、走っては止まりを繰り返した。
私を誘導するように兵長の馬は走り続けた。
そして、ある地点で止まった。
大きな樹が立ち並ぶ。
巨大樹の森の木ほど大きくないけれど、大きい木が立ち並ぶ。
兵長の馬は一つの木を見上げている。

そこには人影があった。
兵長は呑気に夕日を眺めていた。

***

「人に兵団辞めろとか言っておきながら、あなたは呑気にピクニックに来たんですか…?」
「…なんでいる…」
「駄目ですか?…どうして、そんなところで遊んでいるんですか…」
「うるせぇな」
「…兵長の馬がわざわざ―――」

ふと兵長の体を見ると、右手から血が垂れていた。
その垂れた血を辿ってみると、二の腕が切れているように見えた。
兵長はマントでそれを隠した。

「怪我…している。どうしてこんなになるまで…」
「うるせぇ。ここで治療していくから、お前は先に帰れ」
「嘘」
「あ?」
「あなたは…嘘をついている。…気がする…」
「…」
「腕、手綱も握るのも辛いくらい痛いんですか?…だから、馬を放った…。けれど、彼は優秀だから助けを呼んだ…」
「…」
「帰りましょう。壁の中に。エレンやみんな、先に帰っている」
「……チッ…あぁ、わかった」

とにかく一刻でも早く壁内に戻らなければ。
簡単であるが応急処置をした。が、不安ではあった。
ちゃんとした処置を受けなければならない。
そのくらい、兵長の傷は痛々しかった。
帰りたかったが。問題があった。馬は二匹いた。
手綱を握れないほど痛がっている人に握らせるほど私は鬼畜ではない。

「…兵長、二人乗りするしかないです」
「だから俺に構うな」
「…死ねと言われたら死ぬんですか、あなたは…」
「おい、どのツラが言ってるんだ」
「…どのツラ下げても私は、あなたに言い続けますよ、このクソ野郎…」
「は?おい、今なんつった?」
「だから…」

ヒヒーンと兵長の馬が鳴いた。
喧嘩する以前にするべきことがあった。
帰らなければならない。

「…とりあえず、日が沈む前に壁内には戻らないと…」
「あぁ、そうだな…」
「…二人乗りしますので…私に掴まってて下さい…」
「わかった」
「変なことしたら、そこで降ろしますから」
「…おい、曲りなりにも怪我している人間に言う言葉かそれは…」
「行きますよ」

太陽は沈みそうだった。
もっと早く…急がなければ。
日が沈むことも心配だったけれど、後ろにいる人物も心配だった。
私の腕を掴んでいる怪我をしていない左手は、だんだん力が抜けているように思えた。
表情は見えない。けど、きっと痛いんだろう。

だが最悪の事態は訪れた。

「…日が…沈んだ…」
「壁と距離がありすぎる…もう戻るのは無理だ」
「そ、そんな…でも、きっとまだ、待っていてくれるかもしれない」
「無理だ」
「…じゃあ、このまま巨人に食べられろと言うのですか」
「違う。なるべく巨人に見つからない場所を探すしかない。明日の早朝にでも馬走らせれば問題ない。今は余計なことを考えるな。生き延びることだけ考えろ」
「…はい。…見つからない、場所…」
「あぁ。バカデカい木とかな…」
「…あれは、どうですか…」
「…悪くない…走るぞ」

目的地は決まった。
それは大きな煉瓦造りの風車だった。
きっとここなら木の上よりは丈夫だろう。
兵長の馬と兵長を連れ、全速力で駆け抜けた。

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