Novel | ナノ


  06 Letzter Ausweg


Letzter Ausweg

珍しく朝は走っていない。
立体機動装置の整備もしていない。
本当は怠っては駄目なものだろう。
けれど、今日くらいは羽を伸ばしたかった。

「ミカサ!」
「…エレン?どうしたの…?」
「せっかくの休みだから、三人で買い物行きたいなって」
「うん、行こう…」
「よし。アルミン呼んでくるから、先に外で待っててくれないか?」
「わかった。待ってる」

久しぶりの買い物に少しばかり気分が高まっている。
いや、正確に言えば三人で一緒に過ごすということが嬉しかった。
外でしばらく待っていると、声がした。
「行こう」と誘う声に私はそのまま、早歩きで付いて行った。

***

「にしても久しぶりに街で買い物するなんて、嬉しいなぁ」
「調査兵団に入ってから、まったくと言っていいほど休みがなかったしね」
「うん…」

とてもエレンもアルミンも楽しそうだ。
二人が笑っていると、私も笑ってしまう。

「僕、買いたい本があったんだ!寄って行っても良いかな?」
「おう、行こう」
「うん」

アルミンは本当に本が好きだ。
たくさんの種類、ジャンルの本を持っているし読んでいる。
エレンもたまに借りて読んでいるようだけど、何の本を読んでいるのだろうか。
今度借りてみよう。

「はー!買いたい本あって良かったよ!付き合ってくれてありがとう」
「なぁアルミン、今度その本貸してくれないか?難しい内容だったりするのか?」
「大丈夫だよ。難しくなんかないよ。小説なんだけどね、その主人公が…」
「…おい、あれ、巨人になれるっていう…」
「…!?」
「…」
「…」

街を歩いていると、足音とは別に声がした。
その声を私たちは聞こえないふりをしながら歩いた。
けれど、不快なことに声の方が大きく聞こえた。

「…っ…」
「ミカサ…抑えて…」
「わかっている…」
「…ミカサ、気にするな…」
「…」

エレンもアルミンも耐えている。
私がこんなところで暴走すれば、きっと二人にも迷惑がかかる。

「…こいつのせいで、多くの人間が死んだって聞いたぞ…」

そんなことない。
死んだ人たちがいたから、わかったことがある。

「…巨人の子供なんて、実在したんだな…」

エレンは巨人の子供じゃない。
私と同じ、人間。

「…なんでも、腕を切ってもまた生えてくるらしいぞ…」

たしかに生えてくる…。
エレンをそんなに貶さないで。エレンにも痛いって気持ちがある。

「…気持ち悪いな…」

エレンは気持ち悪くなんかない!
あなた達にエレンの苦しみなんて、わからないくせに!

「―――っ!!!」
「よせ」
「!!?」
「…リヴァイ…兵長…?」
「…来い、ミカサ…」
「なっ!何を!」
「エレン、アルミン。悪いがこいつを連れて行く。食事の時間までには本部に戻れ」

グイッと服を掴まれそのまま連行される。
いくら振りほどこうと思っても敵わない。
離して。お願いだから、離して。
手のひらから爪が食い込んで血が出そうになるくらい、手を握りしめた。

***

私はそのまま本部の兵長の執務室に連行された。
ソファに「座れ」と言いながら、彼もソファに座る。
端と端。
真ん中に人が入るくらいのスペースを残して。

「気分はどうだ」
「…最悪です…」
「そうか」

そのままくつろぎ始めた。
この人は、何がしたいんだ。
やり場のない気持ちを抑え込む。

「お前、あいつらをどうするつもりだった」
「…どう、とは?」
「そんなの自分で考えろ」
「…」

気が付けば睨みつけていた。
彼はそれに気が付いているのかいないのか、ただ天井を見ていた。
仕方なく睨むのを諦め、真っ直ぐ前を向いた。

「…エレンを悪く言う意味が…私には、わかりません…」
「…」
「エレンはみんなを救った。実際、私を助けた。トロスト区も救った。なのに、どうしてエレンだけが悪く言われるんですか。エレンは…エレンは…ただ…戦っただけなのに…」
「…」

さっきの奴らを思い出して更に怒りがこみ上げてくる。
握りしめた拳はぶるぶると震えていた。

「…」
「…おい…」
「……私は…また…自分に負けました…また…自分を抑えることが…出来ませんでした…あの時…あの時…兵長が抑えてなければ…私は…きっと、調査兵団をクビになって…」
「…」
「悔しい…です。結局…兵長と訓練をしても、経験を積んでも…自分に…勝てなかった…」
「…」
「私は…負けた…自分に…」

涙がぼろぼろと零れてきた。
私がしようとしたことは、あの日と変わっていない。
もし、あのまま兵長が来なかったら。
考えただけで恐ろしい。

「お前、向いてないな」
「え…?」
「もう、調査兵団辞めろ。いや、兵士を止めろ。お前は自己犠牲に酔っているのか?それは兵士の仕事ではない」
「…そんな…」
「お前はただ自分の欲を満たすためだけに生きているのか?」
「…そんなこと、ありません」
「嘘をつくな」
「…ちがっ―――」

マフラーを掴まれた。
それと同時に反省していた気持ちがぷつんと切れた。

「お前はそうやって―――」
「…ないで…」
「あ?」
「触らないで…マフラーに、触らないで」
「…」
「…お願い…触らないで…」

煮え滾って仕方ないくらい怒っているはずなのに声は震えていた。
彼は掴んだマフラーをそっと手放した。

「出て行け」
「…っ!」

初めて見た目つきだった。
思わず慄いき、ビクッっと身体が動いた。
マフラーで口を隠し、そのまま私は静かに執務室から出て行った。
私はなにをどうすれば良かったのかわからない。
ただ、心がもやもやして仕方ない。

部屋までの道のりは、視界が霞んで見えなかった。

prev / bookmark / next

[ back to Contents ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -