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  05 江戸紫の絆


「神隠し」は軽はずみに使っていい言葉ではないと理解してもらえたから良かったが、我が主は疲れ果てた子羊のように、見たことがないほど落ち込んでいた。
だが私はあの時出来るならば永遠に彼女と居たいと思ってしまった。
私は気がつけば彼女の左手を握り締め立ち止まっていた。

「我が主」
「なに?」
「……私は未熟な存在なのかもしれない」
「あの人の言葉なんて間に受けなくていいよ」
「でも、私は貴方といるから胸を張って刀剣男士、新々刀の祖として過ごす事が出来る」
「ほんと?……良かった」
「私はなにがあろうとも貴方の最期の時までずっと側にいるつもりだ」

真っ直ぐと我が主を見つめる。
そんな私に少し驚き、構えたように身体が少し硬直した。
お見合い用に粧し込んだ彼女はとても素敵だった。

「私と祝言を挙げてほしい」
「しゅう、げん?」

祝言の意味がわからないのか、我が主は少し不思議そうな表情をする。
主の温かな左手を包むように両手で握り、煌めく瞳を見つめながら、ゆっくりと跪く。

「僕と、結婚してください」

我が主の顔は見る見るうちに赤くなる。それと同時に大粒の涙を流す。
幼児が泣いているとでも思うほど大袈裟に泣く彼女は少しだけ嗚咽混じりに話し始めた。

「……はい。お願いします」

彼女は私の右手を強く握り締める。
それに応えるように私はゆっくりと立ち上がり、彼女を今日までの感謝と労いを込めてゆっくりと抱きしめた。

*****

彼の突然のプロポーズにとても驚いた。だが、驚きよりも幸せの方が勝っていた。
彼の温もりに包まれると安心した。

「ありがとう、水心子」

私はあなたに何度も救われた。
これからもこの先ずっと何があろうとも一緒にあなたと過ごしたい。

「本当にありがとう」
「……私はただ、貴女をこれからもずっと守りたいと決めただけで、礼を言われるものではない」
「いいの。私が言いたいだけだから」
「そう、か。……星でも見ながら少し寄り道して帰ろう。顔も涙でぐちゃぐちゃだ。こんな顔では本丸のみんなに示しがつかない」
「う、うん」

抱かれた身体は離れる代わりに差し伸べられた手を握り返す。
彼の手はとても温かくて、安心するものだった。この温度を私はずっと手放したくない。
ふと水心子に目線を向けた。
真っ直ぐと前を向き、後ろは決して振り向かない。
彼はそういう性格の刀剣男士だ。

「……好きだよ」
「ん?なにか言ったか?」
「いいや。あ、北極星」
「綺麗だな」
「……ふふ」
「な、なにがおかしい」
「結局、あの日以降星を見る機会がなかったから嬉しくて」
「そうだな。なんだかんだ言って、お互いに忙しかったか────ッ」

触れるくちびる。聞こえる心音。薫る香。すべてが愛おしかった。
私の命が尽き果てるその日まで、私は彼と共にある。運命共同体。
その誓いを込めた口づけでもあった。

「きゅ、急に口づけなど……。誰かに見られたらどうするんだ」
「ごめんね、あなた」
「〜ッ。か、からかわないでくれないか」

そう言いながらも満更でも無い瞳をしている。
再び彼の手を握り、彼も私の手を握り返す。
これが私たちの新しい絆だ。

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