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  04 Glücklicher Mensch


Glücklicher Mensch

次の壁外調査の日程が決まった。
一週間後。
ほぼ強行と言って良いくらいの日程だ。
本来だったら一ヶ月ほど前から念入りに準備をするが、調査兵団に融資している団体がそれを許さなかったと聞く。

「これで惨めに帰ってきたら、本当に調査兵団は組織自体なくなりそうですね」
「縁起でもねぇこと言うな」
「…そうですね」

平地での訓練を終え、厩舎で馬の様子を確認しながらの会話だった。
ふと兵長の方へ目をやる。
兵長の馬の毛並みに見とれる。とても綺麗な毛並みだった。
ブラッシングも抜かりなくやっている。
意外だと言えば意外だが、そんなもの当たり前なのだろう。

「…兵長の馬は、とても勇敢と聞きました」
「なんだ、突然」
「エレンが言っていたんです。兵団の馬は勇敢だけど、兵長の馬が一番勇敢だって」
「そうか」
「はい」
「…乗りたいのか?」
「え?」
「別に乗せても構わないが。こいつが良いと言うかわからんが」

声をかけながらそっと兵長の馬の方へ近づく。
馬と目が合う。思った以上に優しい瞳をしている。
耳が少し動いている。落ち着きがないのだろうか。
声のトーンを優しくして話しかける。耳の動きが収まった。落ち着いたのだろう。
手を首元まで伸ばしゆっくり撫でる。
毛並みは見た目以上に良い。とても触り心地が良い。
すると馬は、顔を私の体に摺り寄せてきた。

「ほう…」
「…お前は主人に似なくて良かったね。とても優しい…」
「…今、なんて言った」
「あ、聞こえてました?」
「当たり前だろうが…まさか、他人に懐くとはな…。少し驚いた」
「…驚いたようには見えませんけど…」
「人のこと言えないだろうが、お前も」
「…チッ」
「おい、舌打ちすんな…」
「…さぁ、不機嫌そうな主人は放っておいて、ちょっと散歩に行こうか」

兵長の馬を引き連れて、私は厩舎を出た。

***

馬で走るのは気持ちいい。
立体機動で空を飛ぶ感覚とは別の良さがある。
兵長の馬は、私に合わせて走ってくれる。
身体の揺れ、呼吸に合わせて。
けれど、私の馬がそういうことをしないという訳ではない。
私の馬もとても誇らしく思う。とても。

「…思ったより遠くに来てしまった…」
「お前、飛ばし過ぎなんだよ。こいつに無理させんな」
「…わかっています。でも、ここは本部とそう離れていないので大丈夫だと思います」
「とりあえず帰るぞ。明日は早朝から訓練あるだろうが」
「そうですね。…帰ろうか」

兵長の馬はヒヒンと声を上げて首を激しく振った。
優しく首を撫でると落ち着いた。
手綱を握り、馬を走らす。

兵長と馬を並走して走る。
競い合うつもりは無いけれど、どうしても競いたくなる。
この人には負けたくなかった。
けれど、負けてしまうのが悔しかった。

「兵長」
「なんだ」
「…」
「…」
「…」
「おい、なんだ」
「…なんでもないです」
「そうか」

昔と比べて兵長とはよく話すようになった。
くだらないことで会話もするようになった。
だからと言って、気を許したわけではないけれど。
そしてふと思いついたように会話をつないだ。

「今度の壁外調査、被害は少ないと良いですね」
「…あぁ…。だが死んでいった奴は帰ってこない」
「…わかっています…」
「本当に、地獄は地獄でしか塗りつぶせない。…クソみたいな世界だ」
「でもその世界に私たちは生まれた」
「…」
「地獄だろうと生きていく」
「…お前は本当に、幸せもんだな…本当に…」
「お互い様だと思います」
「…そうか…」

兵長の方へ視線をやると、あの時と同じだった。
女型からエレンを奪還して、森を抜ける時と同じ目をしていた。
何かの痛みに耐えるような、目。
怪我はしていないはずなのに、どうしてそんな目をするのだろうか。
私にはわからない。
そして馬を本部まで飛ばした。

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