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  02 心、此処にあらず


あの手紙を受け取った翌日。
朝のルーティンである、刀剣男士全員に挨拶をしに行く。
そして、最後は水心子だ。

「水心子、おはよう」
「あぁ、おはよう」
「……」

水心子は声をかけても私を避けるようにしている。まるで出会った頃の関係に戻ってしまったようだ。
昨日のあの時まで普通の関係だったのに、たった一通の手紙で全てが狂ってしまった。
とてもそれが苦しく、辛かった。

あれから数日経った日、こんのすけが私に伝令を持ってきた。内容は覚悟していた。
お見合いしたくない。結婚なんかしたくない。
私には水心子がいるのに。どうしてこんな事に。
私は彼のことを刀剣男士、近侍、初期刀、恋人と色々な立場で理解してたつもりだった。
だけど彼は「人と刀」の垣根を越えていなかった。
当たり前だ。だって私は人だから。どう頑張っても刀にはなれない。水心子が人になることも出来ない。
刀になれない……?人になれない……?
ふと目の前にあった亡くなった両親と最後の写真を見て閃いた。
急いで水心子の元へ向かった。

*****

夕飯も終わり、夜の稽古を前に少し部屋で寛いでいる時だった。
こんのすけから我が主のお見合いの件を聞かされた。
「明日の正午に執り行われることになりました」
明日だ。明日の今頃には全て終わっている。
ひとりで明日の作戦を脳内で考えていると、私を呼ぶ声がした。

「水心子!」
「な、なんだ。そんなに慌てて……」
「ねぇ、開けて欲しい」

障子を開けると我が主は私の両腕を掴み嘆願をする。
こんな焦り尋常ではない。何事だ。

「……後生だから、私を神隠ししてよ……」
「……っ」
「そしたら私はお見合いする必要なんてないし、水心子とずっと一緒にいられるから……だから……」
「駄目だ」
「どうして?」
「あなたは人。私は刀だからだ」
「それは刀剣男士としてでしょ?水心子正秀、あなたに聞いてるの」
「……」

我が主は大粒の涙を溢しながら私に問い詰める。
彼女への答えは「今すぐにでも貴女を守りたい」気持ちだ。
だが、私が迂闊に動けば我が主に重たい罰則が科せられる。私利私欲によって我が主がそんな目に遭わされるのは御免だった。
今はこうするしかなかった。

「……私は折れるまで命が続く。どんな大怪我をしても手入れをすれば何事もなかったように再び戦へ赴く。何故なら私が刀だからだ」
「……ッ」

絶句した顔をして、一筋の涙を零しながら、我が主は涙を拭きながら逃げるように走ってゆく。
私の嘘で彼女を傷つけたのは間違いない。
「ごめんね、主」
わかっていたが彼女の反応に予想以上に堪えた。
思わずその場にしゃがみ込む。

「水心子はよくやってるよ」
「きっ、清麿!?」
「大丈夫。作戦は必ず成功するよ。だから、ちょっと辛いけど頑張ろう」
「あ、あぁ」
「でも、主ったら大胆なんだね。神隠しだなんて」
「……」
「もしかして本当にするつもりだった?」
「まさか。そんな事をすれば彼女の人でも神でもない悍しいものになるだけだ」
「そうだね。じゃあ明日頑張ろうね」
「あぁ」

人間の思う神隠しと、私達刀剣男士の思う神隠しは全くの別物だ。
我が主のように神隠しをすれば神の寵愛を受け、死のない世界で共に過ごす事が出来ると思っている人間は多い。
だが本来の神隠しは、対象を神の一部にしてしまうこと。記憶も身体も全て吸収されてしまうので、神隠しされた者はなにも残らない。悪くいえば養分だ。そんな事をするのは神の逆鱗に触れた者、邪念や欲に飢えた神が行う事だ。
私はそこまで堕ちていない。だが、我が主と一緒に過ごすにはどうしたら良いのだろうか。
「……結婚、か」
人間の男と女が結ばれる最後の形。一生涯共に過ごす契り。
刀剣男士である私が、我が主にその契りを交わしてもいいのだろうか。
ただの私の独り善がりではないのだろうか。
だが私は明日、主の結婚を阻止しようとしている。それは矛盾しているのではないか。
どんなに悩もうとも時は残酷に過ぎていった。

あの手紙を受け取った翌日。
朝のルーティンである、刀剣男士全員に挨拶をしに行く。
そして、最後は水心子だ。

「水心子、おはよう」
「あぁ、おはよう」
「……」

水心子は声をかけても私を避けるようにしている。まるで出会った頃の関係に戻ってしまったようだ。
昨日のあの時まで普通の関係だったのに、たった一通の手紙で全てが狂ってしまった。
とてもそれが苦しく、辛かった。

あれから数日経った日、こんのすけが私に伝令を持ってきた。内容は覚悟していた。
お見合いしたくない。結婚なんかしたくない。
私には水心子がいるのに。どうしてこんな事に。
私は彼のことを刀剣男士、近侍、初期刀、恋人と色々な立場で理解してたつもりだった。
だけど彼は「人と刀」の垣根を越えていなかった。
当たり前だ。だって私は人だから。どう頑張っても刀にはなれない。水心子が人になることも出来ない。
刀になれない……?人になれない……?
ふと目の前にあった亡くなった両親と最後の写真を見て閃いた。
急いで水心子の元へ向かった。

*****

夕飯も終わり、夜の稽古を前に少し部屋で寛いでいる時だった。
こんのすけから我が主のお見合いの件を聞かされた。
「明日の正午に執り行われることになりました」
明日だ。明日の今頃には全て終わっている。
ひとりで明日の作戦を脳内で考えていると、私を呼ぶ声がした。

「水心子!」
「な、なんだ。そんなに慌てて……」
「ねぇ、開けて欲しい」

障子を開けると我が主は私の両腕を掴み嘆願をする。
こんな焦り尋常ではない。何事だ。

「……後生だから、私を神隠ししてよ……」
「……っ」
「そしたら私はお見合いする必要なんてないし、水心子とずっと一緒にいられるから……だから……」
「駄目だ」
「どうして?」
「あなたは人。私は刀だからだ」
「それは刀剣男士としてでしょ?水心子正秀、あなたに聞いてるの」
「……」

我が主は大粒の涙を溢しながら私に問い詰める。
彼女への答えは「今すぐにでも貴女を守りたい」気持ちだ。
だが、私が迂闊に動けば我が主に重たい罰則が科せられる。私利私欲によって我が主がそんな目に遭わされるのは御免だった。
今はこうするしかなかった。

「……私は折れるまで命が続く。どんな大怪我をしても手入れをすれば何事もなかったように再び戦へ赴く。何故なら私が刀だからだ」
「……ッ」

絶句した顔をして、一筋の涙を零しながら、我が主は涙を拭きながら逃げるように走ってゆく。
私の嘘で彼女を傷つけたのは間違いない。
「ごめんね、主」
わかっていたが彼女の反応に予想以上に堪えた。
思わずその場にしゃがみ込む。

「水心子はよくやってるよ」
「きっ、清麿!?」
「大丈夫。作戦は必ず成功するよ。だから、ちょっと辛いけど頑張ろう」
「あ、あぁ」
「でも、主ったら大胆なんだね。神隠しだなんて」
「……」
「もしかして本当にするつもりだった?」
「まさか。そんな事をすれば彼女の人でも神でもない悍しいものになるだけだ」
「そうだね。じゃあ明日頑張ろうね」
「あぁ」

人間の思う神隠しと、私達刀剣男士の思う神隠しは全くの別物だ。
我が主のように神隠しをすれば神の寵愛を受け、死のない世界で共に過ごす事が出来ると思っている人間は多い。
だが本来の神隠しは、対象を神の一部にしてしまうこと。記憶も身体も全て吸収されてしまうので、神隠しされた者はなにも残らない。悪くいえば養分だ。そんな事をするのは神の逆鱗に触れた者、邪念や欲に飢えた神が行う事だ。
私はそこまで堕ちていない。だが、我が主と一緒に過ごすにはどうしたら良いのだろうか。
「……結婚、か」
人間の男と女が結ばれる最後の形。一生涯共に過ごす契り。
刀剣男士である私が、我が主にその契りを交わしてもいいのだろうか。
ただの私の独り善がりではないのだろうか。
だが私は明日、主の結婚を阻止しようとしている。それは矛盾しているのではないか。
どんなに悩もうとも時は残酷に過ぎていった。

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